このT2R4を搭載したグラフィックスカード「Revolution IV」は、1998年5月にリリースされたが、ハイエンド市場を死守することができなかった。理由はデバイスドライバーがひどすぎたためだ。Direct 3D系を捨ててOpenGLをメインに考えていたとはいえ、Windows 9x系のドライバーは性能が出ても表示がおかしいとか、Direct Drawの動作がおかしいといった不具合が多く、性能もやっとRIVA128に並ぶ程度。Windows NT系も、Number Nineの純正ドライバーはトラブルが多く、ほとんど性能が発揮できなかった。
皮肉なことに、マイクロソフト製のインボックスドライバー(OSパッケージに含まれるドライバー)は、T2R4の性能をフルに発揮するとは言えないものの、はるかにまともで安定していた。また、Macintosh向けに独formac社が開発したT2R4のOpenGLベースのドライバーは、非常に高速かつ安定して動作したから、これはひとえにドライバーの出来によるものである。またSGIも、このマイクロソフト製ドライバーをベースに改良したドライバーを自社製品向けに提供しており、こちらもかなり高速に動作したという。
もしNumber Nineが自社でこうした品質のドライバーをリリースしていれば、ひょっとすると市場を失わずに済んだかもしれない。しかし結局このハイエンド市場は、はるかにマシなドライバーを提供したMatroxが奪っていくことになった。もっともそのハイエンド市場と呼ばれるものも、3DLabs社の「Permedia2」や、IBM(後にATI)の「FireGL」、そしてチップのハードウェアを変えずに「ドライバーでの差別化」という形でラインナップされたNVIDIAの「Quadro」といった競合製品が投入されて、次第にMatroxもそのポジションを失っていった。T2R4にまともなドライバーがあったとしても、恐らくNumber Nineの余命が数年伸びた、という程度であったかもしれない。
Number NineはImagineシリーズとは別に、S3のグラフィックチップ「Virge」を利用した「GXE」シリーズとか、「Vision/Motion/Reality」といった低価格向けグラフィックスカードを出荷していた。T2R4の後にも、S3「Savage 4」を搭載したグラフィックスカード「SR9」を出荷。これが同社最後の製品になってしまった。1999年、同社はChapter 11(米国版の会社更生法)を申請。同社の資産はS3に買収されて、Number Nineの名前は消えることとなった。
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同社はなぜかビートルズが好きだった。Imagine 128を起動したときには、BIOS画面に「Imagine there's no limit...」と表示されたくらいだ(もちろんジョン・レノンの「Imagine」の歌詞のもじり)。これが、Imagine 128 Series 2では「Here comes the sun...」と表示され(ジョージ・ハリスンの「Here comes the sun」)、Revolution 3Dでは「I've got a "Ticket to Ride"」(T2Rの名前の元にもなった、ジョン・レノンの「Ticket to Ride」)、Revolution IVでは「a little help from your friends」(ジョン・レノンとポール・マッカートニーの「With a Little Help from My Friends」から)と表示されたという具合だ。
ほかにも、基板上にビートルズの曲にちなんだ文言がシルク印刷で入っているといった遊びもあった。こうした“お遊び”を好んだユーザーも結構多かったと聞くが、こうした遊び心を持った会社がNumber Nine亡きあとは見当たらないのが、ちょっと残念である。
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