――ユークス体制時の新日本は、ユークスからの出向社員がいましたが、内部を統括していたわけではなかったんですか?
蝶野:だからその辺が出来てないよね。ビフォー、アフターじゃないけど、生活の形を変えて環境をいいようにしようという設計があったら、もっと違っていたはず。たとえば興行システムを変えていくだとか。
簡単なリフォーム案だけで取り壊しを進めていたんだと思う。とりあえず解体はしたものの、リフォームができずに途中で違う工務店に任せるという形になったということかな。ビジネス業界ではスクラップ&ビルドがあるが、ビルドの対応ができてなかったね。
俺が新日本に在籍しているときに見てきた歴代のオーナーは、猪木さん→テレビ朝日→佐川急便→猪木さん→ユークスの順になるけど、猪木さんは事業を拡張しようとして、アントンハイセルという看板で他の事業に手を出して資金繰りがおかしくなって。テレビ朝日はテレビ朝日から出向役員がいっぱい入ってきて。佐川急便の会長は、興行でのチケットの販売にものすごく協力してくれた。
で、そのあとに猪木さんに戻ってきて、猪木さんは当時のK-1、PRIDEといった総合格闘技に対する防御というか、飲まれる前に飛び込むという、一応の方向性はあった。
みんな他の人たちは何かをするために解体していたけど、ユークスはビルドをするための目標が見えなかった。
本当はジャニーズを目指すべきだった
――確かに経費削減のためにフロント、選手を切っていった印象がありますね。
蝶野:そうそう。話を聞いていて、粗を探して、その粗をどうするかはなかった。スマート化すると言っていたけど、削る一方で事業は縮小していったものね。拡大はなかった。
方向性というものではなかったけど、ホワイトナイトのユークスが目指したがっていたのは、アメリカのメジャー団体のWWE。エンターテイメントスポーツでは、ある意味完成された組織形態の興行会社。
新日本の興行運営については自前でできるという力はついたけど、じゃあ今度そこに上がる素材の選手たちが頑張っていても、会社として目指すだけの育成ができたのかと。いま見渡す限りは、一般メディアで通用するタレント性のあるプロレスラーが輩出できたかといえば、それは多分できてないよね。
――いまの新日本の若い世代は、いい試合をしているんですけどね。
蝶野:試合の質という問題ではなく、一番重要だったのはファンへのアプローチの仕方だと思うよ。ユークスはよく、新規のプロレスファンを会場に運ばせないといけないと言っていた。新規開拓というのは分かるけど、新日本は今年で創立40年で、40年にわたるプロレスファンがいるわけじゃない。
いま40代になった人、50代になった人、60代になった人も楽しめるようにすべきで、彼らは新規でなくキャリアがあってプロレスに免疫のある人たち。その人たちに通用するようなプランニングもすべきなのに、ユークスはそこは金にならないという計算だった。
だから10代、20代のスターを育てようと。本当はジャニーズを目指すべきだったね。あそこは何世代にもわたるタレントがいて、各グループのファンは、タレントと同世代だからね。
【筆者プロフィール】 蝶野 正洋
日本のプロレスラー。アメリカ合衆国シアトル生まれ。アリストトリスト有限会社代表取締役。
1984年新日本プロレスへの入門以降、第75代NWAヘビー級王座、G1クライマックス前人未踏のV5達成など、数々のタイトルを獲得する一方、96年にはnWoジャパンを設立して一大ムーブメントを起こし、TEAM2000を結成するなど、優れたマネージメント手腕も発揮。2010年に新日本プロレスを離れてフリーとなったが、未だ絶対的な存在感を放ち続けている。現在はリング以外にも活動の幅を広げ、設立したブランド「ARISTRIST(アリストトリスト)」では、ブラックを基調としたコンセプトで、アパレル、グッズ等のトータルデザインを手掛けている。TV、CM出演多数。
ビジスパにて2011年8月よりメルマガ「蝶野が語るプロレスマーケティング - ホワイトナイトという名の乗っ取り - 」を執筆中。
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