自動車部品メーカーの市光工業は、日立ソリューションズの大容量高速転送サービス「活文 デジ活ワイド」を導入し、海外拠点との3D CADデータの受け渡しを大幅に高速化した。5時間かかっていたファイル転送をわずか1分にまで収めたソリューションの威力を探る。
中国拠点とのファイル転送に時間がかかる
1903年の創業以来、100年を超える歴史を持つ市光工業は、自動車用のランプやミラーを中心とする自動車部品の開発・製造を行なう専門メーカーで、現在はトヨタや日産をはじめとする国内すべての自動車メーカーに製品を供給している。最近では、電気自動車「日産リーフ」に省電力性能の高い同社のLEDヘッドランプが採用されているという。
同社は2000年にはフランスの自動車部品大手のヴァレオ社と包括的な資本・業務提携を結び、グローバル展開を本格化。2008年から経営体制も一新し、成長著しいアジア市場への進出を積極的に行なっている。ここには「もともと自動車のランプを作るメーカーは小糸製作所さん、スタンレーさんなど日本でも数社しかありません。昨今は自動車産業自体の急速なグローバル化が進められている上に、国内市場自体がシュリンクしている状況の中で、そもそも海外進出しなければ、事業自体が成り立たなくなっています」(市光工業 経営企画室 経営企画課 主管 シニアエキスパート 金子元一氏)という背景があるという。
こうした事業戦略もあり、市光工業では本社や工場、テクニカルセンターなど10箇所の国内拠点のほか、中国やマレーシア、インドネシアなど5つの営業・生産拠点を有している。ただ、開発は国内であったため、海外拠点とネットワークを直結しなくとも特に問題はなかったという。ところが2010年末にグローバル戦略の一環としてヴァレオ社が中国に持っている設計拠点とやりとりする必要が生じた際、ファイル転送に時間がかかるという問題が発生した。
市光工業 コア・エンジニアリング&レイズ部 シュミレーション&エンジニアリングシステム課の村上公一氏は、「中国武漢の拠点から日本にあるデータサーバーからインターネット経由で3D CADのデータを取得してもらおうと思ったんですけど、予想外に時間がかかることがわかりました。後日、計測したところ、100MBの転送に5時間かかっていました」と説明しており、大きなロスとなっていたことがわかった。
そのため、村上氏は市光工業のシステム関係を担当している兼松エレクトロニクスとミーティングを重ね、海外拠点へのファイル転送を高速化するソリューションの提案を依頼したという。もちろん、直接WAN回線も引くことも検討したが、「見積もりを見たら、桁が違うことがわかった」ということで断念。結果として、兼松エレクトロニクスが提案したのが、日立ソリューションズの大容量高速転送サービス「活文 デジ活ワイド」である。
通信の多重化で高速化を実現する「活文 デジ活ワイド」
「活文」は、日立ソリューションズのコンテンツ活用システムのブランドで、「活文 デジ活ワイド」(以下、デジ活ワイド)は製造業向けの高速なファイル転送を実現するサービスになる。ベストエフォートであるため、環境に大きく依存はするが、アジア圏などを相手にした3D CADなどギガバイトクラスのデータ送受信でも、最短数分で転送が可能になる。
こうしたデジ活ワイドの特徴を、日立ソリューションズの営業統括本部 産業・流通営業第1本部 営業第4部 主任の竹内克則氏は、「いったん弊社のデータセンターに送り、そこから多重セッションで宛先まで送ります。普通のインターネットでもセッションを複数張ることで、高速で切れにくい通信を実現しています」と説明する。通常、Webブラウザでの多重セッションは限界があるが、デジ活ワイドではJavaアプレットを利用して、多重セッションを可能にしている。通信はセッションレスのHTTPSを用いているが、ファイル転送のステータスを詳細に制御しているため、転送の失敗がないという。
また、SaaS型で提供されるため、機材やアプリケーションなどが不要で、Webブラウザから利用可能。HTTPSでの通信となるため、導入も基本的にアカウントを発行するだけで済む。
こうしたWebブラウザベースのファイル共有・転送サービスは数多くあるが、「使い勝手は悪くないのですが、製造業のお客様は制約や基準が厳しくて、コンシューマ系のサービスを利用できないところも多いようです」(竹内氏)とのことで、日立ブランドの法人向けサービスが与える安心感は大きいようだ。
100MBの転送がなんと1分で!
兼松エレクトロニクスの提案を受けた市光工業は、さっそくテストを開始。「従来、5時間くらいかかっていた100MBのファイル転送が、1分くらいで済むようになった」(村上氏)という。使い方も容易で、中国側も違和感なく受け入れられたという。
結果として、2011年4月からデジ活ワイドを一部導入。11月には6箇所の海外拠点と、国内のテクニカルセンターを結ぶCADデータ転送システムで本格運用を開始。「中国との間では1日4~5往復くらい。通信環境の悪いインドネシアでも問題なく利用できています。とにかく日常的に使っていますね」(村上氏)とのこと。グループ全体で約200時間のデータ転送時間の削減を実現したという。
現在はグループ内での運用にとどまっているが、今後は取引先やサプライヤーなどにも展開していきたいという。また、「そもそも3D CAD以外のデータ自体も巨大化しつつある」(村上氏)とのことで、設計部門以外でも利用を拡げていく予定だ。
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