今回のGPU黒歴史は、Rendition社の「V2x00/V3300/V4400E」をご紹介しよう。
初登場のVérité V1000がスマッシュヒット
順風の船出となったRendition
古くからのPCユーザーには比較的認知度が高いRendition。グラフィックス専門のファブレス企業として設立されたのは1993年のこと。1995年には同社最初の製品である「Vérité V1000」がリリースされる。このVérité V1000は比較的性能も良く、1996年にはCreative LabsやSierra Entertainment、カノープス、Intergraphといったベンダーから、これを搭載したグラフィックスカードが出荷され、売り上げも好調であった。
構造的に見ると、Vérité V1000はちょっと独特だった。グラフィックチップに特化したベンダーながら、Vérité V1000の内部はいわゆる描画パイプラインにRISC CPUを組み合わせるという、一種独特のアーキテクチャーを採用していた。今風に言えば、描画パイプラインは固定シェーダーで、RISC CPUがプログラマブルシェーダーとして機能するとでも言うべきか。
そうは言っても、スペック上は完全な2Dと3Dのグラフィック機能を持つグラフィックチップで、3Dではバイニリア・フィルタリングとかミップマッピング、アンチエイリアシングといったフィルタリング機能を、当初から搭載した製品であった。
1996年と言えば、S3の「S3 Virge」とか、前回触れたMatroxの「Mystique」、VideoLogic/NECの「Power VR1」といった製品が登場した時期である。こうした製品と比べても、Vérité V1000の3D性能は遜色なく、またやや後に登場した3dfxの「Voodoo Graphics」と比較しても、見落とりしなかった。
以前に3dfx「Voodoo Rush」で仕様書の一部を掲載したが、Voodoo Graphicsはピーク性能で100万トライアングル/秒、1200万ピクセル/秒といったレンダリング性能を持っていた。一方Vérité V1000は、60万トライアングル/秒、2500万ピクセル/秒といったレンダリング性能を誇っていた。
Vérité V1000が面白いのは、フラットシェーディング(テクスチャーを貼らない単なる塗りつぶし)だと50万トライアングル/秒に過ぎないのに、「polyscan command」と呼ばれるモードを使ってテクスチャーを貼ると、60万トライアングル/秒に性能が上がることだ。2Dに関しても「最高速」とは言わないもののかなり高速であり、その結果、多くのゲームユーザーに選択されることになった。
当時は多くのゲームがVérité V1000に対応しており、この中にはid Softwareの「Quake」も含まれた。id SoftwareはVérité V1000に対応したスペシャルバージョンの「vQuake」をリリースしている。これはQuakeシリーズでは初めて、個別のグラフィックチップに対応したバージョンとなった。また、Vérité V1000はマイクロソフトの「DirectX 3」における、リファレンスハードウェアとしても採用された。
ちなみに、当初Vérité V1000は動作電圧5VのCMOSプロセスで製造されており、これが「V1000E」というモデルだった。それが途中で3.3Vのプロセスに切り替わり、「V1000L」というモデルになっている。機能的には完全に同一だが、電圧が下がったV1000Lでは結果発熱が減っている。その分だけ多少クロックアップが可能になり、より性能を引き上げるられた。
いろいろと優れた点の多かったVérité V1000ではあったが、弱点もあった。OpenGLのインプリメントは「一応ある」というレベルで、これでゲームプレイが楽しめるというレベルではなかった。
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