実はコレ、元ネタが!皆が知らない元ネタは、そのまま活用しても、強いインパクトに。
このテレビCMには、実は、元ネタがあります。こちらを、まず見てみてください。
心理学者が主催する研究所の、1999年の実験映像だ。この研究所は、この実験映像を製品として販売しているようなので、ロンドン市交通局も、この研究所から使用権を買ってこのテレビCMを制作していると思われるが、それにしても、ほとんど"まんま"だ。(主催する心理学者は、「Invisible Gorilla(見えないゴリラ)」という著書まで発刊している)
白チーム3人黒チーム3人になっていること、パスの速度がゆっくりなこと、パスの回数が15回になっていること、通り過ぎて行くのが「ムーンウォークする熊」ではなく、「ゴリラ」であること。いくつかの相違点はあるが、基本はまったくと言っていいほど、変更されていない。そういう契約なのかもしれない。
ポイントは、幾つかある。最初に、認知テストだと、わざわざ告げること。文字は、黒バックに白抜きで表示され、白に注目して黒は"地"として見るようになること。白チームのパスを数えろと言われるので、白に注目すること。「ムーンウォークする熊」あるいは「ゴリラ」は黒で、黒チームあるいは"地"として認識されること。
それにしても見事だ。そして、このテレビCMの制作チームの一番の手柄は、1999年に世に出て、あまり皆に知られていないこの知見を発見し、自らの課題である「運転する時は、自転車に気をつけよう!」にみごとに結びつけた点にある。
元ネタの動画がYouTubeで再生された回数は、たった1000回程度。それに対して、テレビCMの方は、なんと1500万回近く再生されている。
まだ知られていない知見を援用して、言いたいことにつなげる。仕事でも、デートでも。
皆に知られていないような知識や知見を発見して、それを、上手く自分の伝えたいことにつなげるのは、かなり有効なやり方だ。ここでポイントとなるのは、「あまり皆が知らない」あるいは少なくても「話す相手にとっては新鮮な情報である」という点だ。
誰もが知っているような情報、あるいは、相手にとって既知の情報では、あまり有効な武器にはなりにくい。あー、あれね。別に、珍しくないし。俺も、知ってるし。だから、どうした?みたいなことになりかねない。
しかし、ほんの少し角度を変えて、アメリカの最新の事例の話を入れてみたり、学者の学説を引っ張って来たり、リサーチ会社が発表したデータを活用したりするのは有効だ。
また、デートの時も、飲み会での会話でも、堅くなり過ぎない程度に、相手にとって「ありふれていない」知識や知見を織り交ぜると、会話は楽しくなる。
手前味噌ながら僕は時々、飲み会などでの話にもかかわらず、話に妙に説得力がある、と言われたりする。「どの辺が?」、と先日聞いてみたところ、小説や映画や書籍や学説や調査データなどの知識や知見が、そこかしこに散りばめられているからだ、と言う。
確かに僕は話す時、そうする傾向があるようだ。例えば、恋愛話をしていて「結婚しない人が増えているみたいね」という話をする時も、ニュースか何かで見た「50歳まで一度も結婚しない男性は、10数パーセントもいる」という話を織り交ぜる。
ま、そのためには、広く知識や知見を得て、かつ、それを覚えておかなくてはいけないのだけれど……。ま、どうぞ、トライしてみてください。
【筆者プロフィール】 佐藤 達郎
多くの国際広告賞審査員を経験した国際派クリエイター。海外広告に関する知見は日本でもトップクラス。長年の広告会社勤務を経て、2011年4月に多摩美術大学教授に就任した。 Twitter( @hinasoyo )の4000人超のフォロワーには、恋愛論や仕事論など柔らかいツブヤキも人気。 ビジスパではメルマガ「"謎の広告"探偵団 - 世界の広告スキルを学んで、仕事を私生活を充実させよう! -」を執筆中。
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