2月14日、日本ベリサインは電子カルテ向けスマートデバイスソリューションを紹介する発表会を行なった。発表会は、導入ユーザーである札幌市の北海道社会保険病院において行なわれ、実際のデモンストレーションも披露された。
電子カルテを安全に手軽に利用する
電子カルテ向けスマートデバイスソリューションは、iPadやiPod Touchを用いて無線LAN経由で電子カルテを利用するシステムで、このたび札幌市の北海道社会保険病院で導入された。電子カルテ端末の画面をリモートデスクトップ(RDP)経由でiPadやiPod Touchに転送することで、閲覧と入力作業を可能にし、回診業務の効率化やコストの削減を実現した。また、個人情報の漏えいや不正利用を防ぐべく、日本ベリサインのMDMを用いて端末を管理し、セキュアな利用環境を実現している。
発表会において、日本ベリサインIAS製品本部 上級部長の坂尻浩孝氏は、スマートフォンやタブレットなどスマートデバイスの課題とベリサインのMDM製品について説明した。コミュニケーションの活性化やモバイル・在宅での業務効率化を目ざし、スマートデバイスの導入はさまざまな企業や組織で検討されているが、「実際に利用しようとすると管理の手間がかかる」(坂尻氏)という課題がある。
こうした課題に対応すべく、ベリサインではクラウド型のMDMを展開している。ベリサインMDMを利用することで、セキュリティポリシーの一括設定、利用状況の把握、盗難紛失対策など、スマートデバイスの統合管理を実現するという。現在、市場には数多くのMDM製品があるが、「弊社のMDMは端末を識別できる証明書と連携し、端末の識別・制御まで行なえる」(坂尻氏)という特徴を持つ。また、iPadやiPhone、Androidなどの端末が混在する環境でも利用でき、VPNやセキュリティポリシーを強制したり、盗難・紛失時の初期化・データ削除などを一括で行なえるという。
古い専用端末のデメリットをiPad導入で解消
続いて導入先の北海道社会保険病院 システム管理室 係長の練生川 和弘氏が電子カルテシステムにおける課題と事例の概要について説明した。
練生川氏によると、同院では2008年に導入した電子カルテ用の端末として専用のノートPCを用いていたが、いくつかの課題があったという。まず専用ノートPCはナースカートに乗せて病院を移動させることになるが、携帯性が悪く、夜中はうるさく、配線も煩雑だった。また、バッテリのもちも調べてみると15~30分と短く、かといって病院でコンセントを挿すと、患者さんがつまづきそうになるという問題もあったとのこと。「バッテリも高価で、交換のために4年間で280万円のコストがかかっていました」(練生川氏)。さらに端末の専有スペースが大きいため、ナースステーションでの設置や操作が困難という問題もあった。
こうした問題を解消すべく導入したのが、電子カルテ向けスマートデバイスソリューションになる。もともとソリューション自体はベリサインから提供されていたわけではなく、練生川氏をはじめとする北海道社会保険病院のメンバーと日本ベリサインで情報交換を行ない、共同で作り上げたものだという。「閲覧だけではなく、PCと同じような使用形態を実現したい。ですが、個人情報を扱う端末なので、データの一切は端末上に保存したくありませんでした」(練生川氏)ということで、シンクライアントのような利用方法を実現するものだという。
こうした要件を受けて構築されたシステムは、4年前の電子カルテのシステムにiPadをそのまま追加したようなイメージで、あえてシンクライアント用のサーバーを立てていないのが特徴。北海道社会保険病院 システム管理室の工藤浩之氏は、「コストをかけずに、既存の電子カルテ端末をそのまま利用しようというコンセプトがありました」ということで、据え置きにした電子カルテ端末とiPadを1対1でRDP接続している。また、ベリサインのMDMと電子証明書を用いることで、不要な機能を制限すると共に、紛失時のリモートワイプなどにも対応。個人情報の塊ともいえる電子カルテの利用においても、漏えいや不正利用がないよう、高いセキュリティを実現した。今後は電子証明書と無線LANの認証を組み合わせたアクセス制御も導入していく予定。
端末としてはiPadだけではなく、iPod Touchも導入されており、従来に比べて可搬性や省スペース性は大幅に向上した。また、電子カルテへの入力をスムースにするためのバーコードリーダーやiPad上での入力を容易にするキーボードなどもあわせて導入。iPadなどの直感的な操作感とあわせて、現場の職員も迷わずに利用できているという。
医療現場において、こうしたモバイルデバイスを導入しようという動きはグローバルでも進んでいるが、端末管理やセキュリティ、操作性の問題などが解消し切れていないのも事実。こうした中、今回の事例は既存の電子カルテシステムを温存しつつ、端末を刷新することで、既存の課題を安価に解決した例として注目に値する。

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