このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

今中国でアップルに何が起きているのか?

中国北京近郊で、商標侵害を理由に「iPad」が販売停止へ

2012年02月14日 19時00分更新

文● 鈴木淳也(Junya Suzuki)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

目的は金銭狙いか?

 すでに中国での判決が出ている以上、アップルの裁判での逆転は難しいというのが大方の意見だ。アップルは近いうちにも同国での販売を諦める、あるいは別の名称での製品販売を行なう必要があるとみられている。中国が世界屈指の成長率を達成しているように、すでに同社にとっての中国ビジネスが重要なポジションを占める現状において前者を選択する余地はなく、おそらくは別の名称での販売を選択せざるを得ないものとみられる。

 今回の話でやっかいなのは、唯冠科技の主張する商標権侵害がビジネス上の競争が理由ではなく、金銭狙いの線が非常に濃い点だ。

 中国では、海外企業の著名ブランドを片っ端から先行で商標登録しておき、これらブランドが中国進出してきたタイミングで裁判を起こして同ブランドでの中国の商売を阻止する、あるいは高額で商標を売りつけるといったケースが多々見られる。

 唯冠科技の「iPad」商標登録自体は2000年前後とみられ、当時まだ「iPad by Apple」が影も形もなかったころであり、アップルを狙い打ちしたものではないだろう。しかも、商標を登録した唯冠科技の台湾子会社から英国企業に商標が譲渡されたのは(iPadの登場した)2010年より前の出来事であり、「アップルがタブレットの発表準備をしている」という話以前に、そもそも「その製品の名称が“iPad”になる」ということが世間一般には知られていなかった状態だ(なおFinancial Timesの報道によれば、欧州ならびに一部アジア地域での同社による商標登録は2004年、アップルへの譲渡はさらに早い2006年となっている)。

 「当時は一定金額での商標売却が可能であると同意し、後に金になると判断した時点で前言を翻した」と判断されてもしかたがない。アップルにとっては寝耳に水な話で、筋を通したのに一方的に悪者にされた気分かもしれない。

 興味深い話では、「訴えを起こしている企業はリーマンショック後の経営不振ですでに銀行による資産接収がなされ、北京のコンサルティング会社「和君創業」が管財人となっている」(アクセンチュア 中寛之氏)というものがあり、金銭目当ての線が非常に濃いとしている。

 今やアップルは過去最高の株価500ドルを突破し、世界トップの時価総額企業として君臨する状態だ。すでに必要十分なキャッシュを持ち、さらなる業容拡大を目指して中国に進出している。だからこそ、膨大な損害賠償をふっかけつつ、将来的にはそのうえでさらに高額での商標譲渡をちらつかせてくるのだろう。

 金銭目当てであるとすれば、アップル側が名称を変更して販売しないよう妥当な金額での和解を目指す形となるとみられるが、「搾り取る」ことが目的であればそう簡単には譲歩しない可能性もある。いずれにせよ、iPadが大ヒットした副産物とでもいうべき、それを利用したビジネスが展開されていると考えるのが妥当かもしれない。今後アップルは、どういった選択肢を選んでいくのかに注目したい。

中国でもアップル製品は人気。写真は北京市内にあるChina Unicomのストア。昨年末時点の写真なので、まだiPhone 4Sの取り扱いはスタートしていない


前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

ASCII.jp RSS2.0 配信中