エンタープライズ向けSSDを製造・販売するSTEC(エステック)は、信頼性を確保しながら、大容量・低価格を実現したMLC(Multi Level Cell)のSSDを展開している。同社のCEOであるManouch Moshayedi氏に、エンタープライズ向けSSDの特徴やMLC向けの技術「CellCare」について聞いた。
コンシューマ製品との最大の違いは「ロバスト性」
STECは1990年代後半のNANDフラッシュの誕生時から産業用や軍需用SSD製品を手がけており、2005年以降はサーバーやストレージに組み込むエンタープライズ向けSSDを開発。大手ストレージベンダーでいち早くSSDを製品に組み込んだEMCを筆頭に、HP、IBM、日立、富士通、NECなどにOEM提供している。OEMのニーズに合わせ、FC/SAS/SATA/PCIeなど幅広いインターフェイスをサポートしたSSD製品のほか、キャッシングに特化したDRAMなども展開しているという。
では、エンタープライズ向けSSDはコンシューマ向けSSDと比べて、どこが違うのだろうか? 「コンシューマ向けSSDはロバスト性(頑強さ・強靱さ)が欠けている。読み出しがメインなので、使い捨てという感覚。ただ、たいていはSSDの寿命が来る前にデバイスが故障してしまう。一方、エンタープライズ向けSSDは、何度も書き込みを行なうためエンデュランス(書き換え可能な回数)特性が高くなければならない。書き込みを失敗すると、ビジネス自体にも影響が出てしまう」(Moshayedi氏)とのこと。そのため、STECのエンタープライズSSDでは、データのバックアップやコントローラレベルでのECC(エラーコレクション)、キャッシュの保護、NANDチップのRAID化などの技術が惜しみなく投入されている。「他社はあくまで受動的にウェハーから耐性の高いモノを選別しているだけだ」とのことで、同社のコアであるコントローラーでは、ロバスト性はもちろん、性能や信頼性を確保するために何重にも保険をかけているという。
セルをいたわる「CellCare」の技術
そして、昨今同社が注力しているのが、エンタープライズ向けSSDのMLC化である。ご存じの通り、SSDで採用されるNANDフラッシュにおいては、セルに対して1素子に1ビット書き込むSLC(Single Level Cell)と2ビット書き込むMLCという技術が提供されている。MLCは書き込み速度が低速で、エンデュランス特性が低かったため、容量と価格を求めるコンシューマ向け製品とされていたが、STECではCellCareという技術により、SLCと同等のエンデュランス特性を確保した。「CellCareではコントローラーが書き込みを均一化することで、特定のセルにストレスをかけないようにしている。1日27回フルに書き換えても、5年保証できるエンデュランスを実現した。」(Moshayedi氏)という。
エンタープライズSSDがMLC化すると、大きなコストインパクトが生じる。Moshayedi氏は「MLCは集積密度が高いので、同じコストで2倍の容量を確保できる。コストパフォーマンスが高いので、高速回転のHDDをSSDにリプレースする動きにつながる」(Moshayedi氏)と話す。「CellCareと似たような技術を持っているアノビットという会社は、先頃アップルに買収された。その他のメーカーは5年くらい遅れている」とのことで、エンタープライズSSDですぐに同様の技術を採用した製品が出るのは考えにくいという。今後のストレージ市場では、こうしたエンタープライズSSDの動向も要注目だ。