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消えゆく日本文化、若者につなげ ニコニコ動画に“再生”の灯

2012年02月18日 12時00分更新

文● 広田稔(@kawauso3

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衰退の危機にあった手妻をなんとしても残したい

 こうして若手の演者が“ニコ動”に出ていくことを、伝統芸能の業界ではどう考えているのだろう。聞けば、一口に“伝統”といっても一枚岩ではなく事情は様々。そして、こと伝統を継承していくにあたっては、その歴史が足を引っ張ることもあるのだと。

 1つのキーとなるのは、家元や流派といった芸能の“伝統”というシステムそのものだ。イエを核とした子弟制には、思想的な背景も含めて芸能を受け継いでいくという遺伝のようなプロセスがある。だが、ルーツの正統性を保つという点に優れてはいるものの、外から新しい遺伝子を呼び込もうとしたときなどには、イエの存在が足かせになることもある。

 さらに家元の歴史が長くなるに連れて、今度は厳しい客からの声も増えてくる。「流行に媚びている」「低俗だ」。そう言われるようなものを作っては家元の名折れではないか。そう思うと、長年愛してくれているファンに向けて、“家元らしい”“安心できる”昔ながらの作品を再生産、バージョンアップしていくことにもなりやすい。

 また、近年では家元というシステムそのものが機能していないケースも増えている。たとえば三味線の中でも“女流”は不遇で、「歌舞伎という大きな収益にあずかれない。家元制度などあってなきがごとし」(藤山さん)とも言われるほどだ。

 「自分のお弟子さんや芸大生にお客がいなかったら、どうやって食べていけばいいのか。それを考えたら、やる意義はあったんです」(七三さん)

2月12日、お弟子さんの発表会を日本橋社会教育会館にて開催。その「客寄せパンダ」としてプロの手で「傷林果」を演奏する

 その点、藤山さんの手妻は少々事情が異なっている。江戸時代に流行した和製奇術は、西洋奇術・マジックの参入によって昭和の中頃にはほとんど途絶えてしまったもの。それを、「こんなに素晴らしいものが途絶えてしまうのはもったいない」という思いから、師匠である藤山新太郎さんが復興したもの。その思いを継いで、ネットの上にふたたび新たな芸能を作ろうとしているのが現在の藤山晃太郎さんだ。

 「この素晴らしい芸を誰かに継承していくことを考えたとき、芸で食う道を提示しないのは絵空事ですよ」と藤山さんは語気を強める。

 「一生の仕事として食っていける道筋を示して継承していくから意味があるのであって、『良いモノだから継いで』では無責任。でも伝統芸能の多くは、『俺と同じ苦労をしてよ』という側面を持っている。そういうところから『(伝統芸能には)これがあるのが当たり前』という側面ができてくる。僕にとっては『当たり前』なんてないんですよ」(藤山さん)

 藤山さんがネット、デジタルにかける思いは、まさにその“当たり前”を作りなおしていくことにもある。「(コンピューターの父と呼ばれる数学者)アラン・ケイの『未来を予言するベストの方法は、自らが未来を作り出すこと』という話と同じです。実績のない若造が『古典はこうあるべきだ』といっても聞いてもらえない。ネット上で、見える形で、結果を出していかなければならないと思うんです」

 熱っぽく語る藤山さんからは、新しい時代のプロの気概がひしひしと伝わってきた。彼にとって、日本の伝統芸能全体にとって、これはおそらく初めの一歩でしかない。ネットという新しい舞台を得た日本の芸能文化は、これからどう変化していくのだろうか。


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