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消えゆく日本文化、若者につなげ ニコニコ動画に“再生”の灯

2012年02月18日 12時00分更新

文● 広田稔(@kawauso3

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若い人に聞いてもらいたかった

杵家七三さん

 今となっては“伝統”でも、芸能自体はもともと日本古来のエンターテイメント。だが、歴史というハードルの高さから「なんだか難しそう」と若者は遠ざかって行きがち。しぜん、お客の年齢層もかなり高めになってきた。この状況を変えないと、10年、20年後にはお客さんがゼロになってしまうのではないか――。

 そんな危機感から、七三さんは30年以上も「新しい層を取り込もう」と活動を続けてきた。1964年に立ち上げられた邦楽演奏グループ「日本音楽集団」にも加入。三味線・琴・尺八・打楽器のアンサンブルを編成したり、前衛音楽を演奏したりと、様々な方法を試したが、手ごたえはほとんどなかった。「剣の舞」などのクラシック曲を三味線で演奏したこともあったが、反応は今ひとつだった。

 「古いものだけやってたら伸びるかというとそうでもないし、かといって新しいものをやってもダメ。じゃあどうしたらいいのかと、ずっと模索していたんです」(七三さん)

 そこに入ってきたのが藤山さんだ。師匠にあたる藤山新太郎さんの演技で三味線を弾いていた七三さんの技量に圧倒され、弟子入りを決意した。そこで藤山さんは七三さんの思いを知り、自身の経験からネット、とくにニコ動の活用を提案する。

 「最初、若いイケメンが弟子に入ってきたなと思っていたら、そのうち口うるさくなってきて、ネットを見せられるようになった」と七三さんは当時の藤山さんを振り返る。

 そして2010年の3月、七三さんは“東方”の曲を一発録りした「幻想郷最速の邦楽演奏 ~あなたの町の怪事件~」をニコ動に投稿。そのギャップの大きさから「罪悪感のある動画」と話題を呼び、わずか1週間で再生数が5万回を超えるクリーンヒットとなった。

 「伝統芸能ではキャパ100人の公演会場をいっぱいにするのも大変な状態です。その公演500回分を1週間で達成してしまった」(藤山さん)



 手応えを感じた七三さんは、間髪あけず第2作「仏曲演奏 『法界唯心』」を作成。ニコ動で人気の住職・蝉丸Pとのコラボレーションで再生数を伸ばしていく。

 そして3作目。“課題曲”とも言われる最高規模の人気曲「Bad Apple!!」に挑戦した。録音を終えた時点で、そのクオリティーに自信を深めた藤山さんは、PVにも徹底的にこだわった。3台のカメラで何度も何度も撮影をくりかえし、とうとう冒頭の動画を完成させた。

 「コメントが面白くて全部読みたいんだけど、ウェブブラウザーを更新したら、全部のコメントが入れ替わっているくらいに追いきれない。おかげでトイレに行けなかったんです。演奏会のアンケートだとよかったことばかりになりがちですが、コメントなら悪いことも書いてくれる。あの楽しさを体験したら、やっぱりやめられなくなります」(七三さん)

2作目の投稿後、藤山さんと杵家七三社中は、ニコ動の一大イベントである「ニコニコ大会議」にも出演。JCBホールを埋める2000人以上のお客を前に、手妻の「金輪切」を披露して喝采を浴びていた

 だが、いつまでも“無料”でやってはいけない。10月、2人はついに有料動画の配信に挑戦することにした。その結果を観てみると、視聴者の約70%が20台以下、ほとんどが三味線の舞台を観るのは初めてだった。長年追い求めてきた“新しい層”が、そこにはいた。

 「手妻でも普通はおじちゃんおばちゃんがほとんどで、若い人は全然来ない」(藤山さん)という状況の中、その公演は芸能史上まれに見る規模だった。七三のブログには「僕は中学生ですけど大人になったら三味線をやりたいです」というコメントもついた。確かな成功の手ごたえをつかんだ瞬間だった。

 じつに30年以上の苦境が、たった1年間で奇跡のように報われたのだ。そこから七三さんは「僕よりニコ動を見ている」(藤山さん)ようになり、今では「草を生やす」(wwwww≒笑い)といったネット用語にも強くなった。藤山さんが「晃太郎ちゃん、この『BBA』って何かしら」と聞かれたこともあったという。ニコニコ動画では「七三先生巡回済み」というタグもあらわれた。

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