ベンチマークでのトリックがばれて
さらに評価を落とす
もっとも、これがインテル最初の製品ということを考えれば、このあたりは生温かい目で見てあげるべきだったのかもしれないが、そうならなかったのはやはり、マーケティングがちょっとやりすぎだったためだ。インテルは製品発売前に、当時利用されていたZiff-Davis社のベンチマークプログラム「3D WinBench98」のスコアを示してその性能を誇っていた。その数字だけ見れば、RIVA 128はおろか次に登場したRIVA TNTとも互角に近いはずだったのだが、実はこれに嘘が混じっていた。
3D WinBench98は8種類のベンチマークから構成されるが、このうち結果として利用されるのは「3D WinMark」というテストであり、これは25種類のシーンを使い、描画の平均フレームレートから算出される。ただしこの3D WinMarkを実施する前に「3D Quality」というテストを実施し、25種類の描画が「正しく行なえるか」を確認する必要がある。この頃はまだグラフィックスカードのドライバーの中には、機能を正しく実装できていないとか、そもそもサポートしていないものもあった。そうしたケースではDirect 3D HAL(グラフィックスカードのハードウェア)ではなく、Direct 3D HEL(ソフトウェアエミュレーション)でカバーしていた。ただしソフトウェアエミュレーションでは、当然性能は落ちる。
そこでIntel 740のデバイスドライバーが何をやったかというと、正しく表示できないような項目であっても、「全部動作します」とレポートしたわけだ。当時、ほかのベンダーのグラフィックスカードでは、できないものは「できません」とレポートされてソフトウェアエミュレーションで性能が落ちていたので、これは明らかに問題がある。
特にこれが顕著だったのは全画面のアンチエイリアス。当時Intel 740以外のグラフィックスカードは、すべてこれを「OFF」(サポートしない)とレポートしていたのに、Intel 740はこれを「ON」(サポートする)とレポートしていたので、これがIntel 740のスコアを思いっきり押し上げることになった。
こうしたトリックがバレた後は、ネガティブ方向に働くのは今もこの当時も同じである。結果としてIntel 740は、必要以上にけなされた嫌いは否定できないが、それも致し方ないところではある。
それでも、次があればまだ挽回できたのかもしれないが、インテルはここでも遅れをとった。この頃のグラフィックチップ市場は、NVIDIA/ATI/Matrox/3dfxといったベンダーがしのぎを削っており、特にNVIDIAはその当時、半年~1年ごとに新製品を投入していた。RIVA TNTは1998年3月、RIVA TNT2は1999年3月だったが、1999年10月には「GeForce 256」、2000年2月には「GeForce 256 DDR」、さらに2000年4月には「GeForce 2 GTS」と、このあたりから急速にペースが上がってゆく。
対するインテルはというと第2世代製品であるコード名「Portola」を「Intel 752」として1999年4月に発表(関連記事)。さらにその後続として、「Intel 754」という製品も開発中という話だったものの、結局これらを搭載したグラフィックスカードはついに出荷されることがなかった。
Intel 740はDirectX 5対応の製品だったが、競合製品はいずれもDirectX 6やDirectX 7に対応するなど、市場の急速な進化に追いついてゆくのが難しいと判断したためだろう。結局1999年8月には、Intel 740のオーダー受注を停止する。Real3Dは1999年10月に、自社の持つ資産をインテルに売却して廃業、ほとんどの従業員はATIに移った。C&Tはこれに先立つ1999年7月に、インテルに買収されている。
そうは言っても、Intel 740が消えて何も残らなかったわけではない。Intel 752コアはそのまま、Intel 810チップセットに「IGT」として内蔵され、現在まで改良を繰り返しながら生き延びているとも言える。ある意味では息の長いグラフィックチップとも言えるのだが、お世辞にも高い性能とは言えないあたりで、決して評価が高くはないがちょっと残念である。
性能だけ見れば、あの当時としてはぎりぎり及第点程度であり、NVIDIAなどと同等のペースで新製品を投入できれば、あるいは評価は変わったのかもしれない。ただそうした後継にも恵まれず、かつインテルお得意のキャンペーンが見事に裏目に出たという2点が、Intel 740を黒歴史入りさせることになったと言えよう。
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