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NRF 2012で提示した“Seamless Customer Experiece”とは?

HPが提案する、店頭でのもてなし

2012年01月23日 09時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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NRF 2012の会場にあった米ヒューレット・パッカード社のブース

 米ヒューレット・パッカードは先週ニューヨークで開催されたイベント“NRF 101st Annual Convention & EXPO”に出展。16~17日の2日間、同社が展開するPOSソリューション、モバイルタブレット、デジタルサイネージなど一連の製品群を展示した。

 会期中には、プレス関係者を集めた説明会も実施。同社が提案する“Seamless Costomer Experience”のコンセプトを紹介した。

低コストで高機能なPC POS端末の普及が進む

 一般的なパソコンユーザーにとっては、なじみが薄いかもしれないが、HPはPOS端末の分野で世界第2位のシェアを持つ企業である。

 以前、日本HPの大島本社を取材した際(関連記事)、同社の食堂に置かれているPOS端末を紹介した。日本国内でもこうしたHP製のPOS端末が「大手の飲食店や専門店を中心に導入が進んでいる」という。

HPのPOS端末としてはエントリー機になる「HP rp3000」シリーズ

 POS(Point Of Sales)とは、商品の販売実績を管理するためのシステム。POS端末とはその入力機器で、具体的に言えば、バーコードをピッとかざすスーパーやコンビニのレジ、飲食店で店員が持っている携帯端末などがこれに当たる。

 最近ではPCなどの汎用機器をベースにしたものが増えており、身の回りを注意深く眺めると、見覚えのあるパソコンにバーコードスキャナーやタッチパネルを追加したPOS端末が増えていることに気付くはずだ。

 HPはPC POS端末の開発に積極的に取り組んでいるメーカーのひとつ。ラインアップには、省スペースデスクトップにディスプレーや磁気カードリーダー、バーコードスキャナーなどを一体化した据え置き型POS端末「HP rp3000」「HP ap5000」「HP rp5800」の各シリーズがある。

 NRFの展示会では、8.9型ディスプレー搭載のスレートPC「HP Slate 2」(関連記事)をカスタマイズしたモバイルPOS端末も紹介していた。

HP Slate2をベースにしたモバイルPOS端末。バーコードスキャナーや磁気カードリーダーなどを安全な一体型のケースに収納している

 いずれもWindows Embedded POS ReadyやWindows 7などマイクロソフト製のOSを搭載。ハード的には、インテル製CPUを搭載するなど、パソコンと大きくは変わらない仕様だ。世界トップのシェアを生かしたHPの調達力高さ(これは製品の低価格化につながる)はひとつの強みだが、企業にパソコンを売っていくために必要なパートナーシップ、ソリューション開発のノウハウをそのまま生かせるという点でも利がある。

 一方でHPはディスプレーやプリンターの世界的なメーカーでもある。NRFの同社ブースではデジタルサイネージ用の大型ディスプレーや、クラウドと連携したプリンターなども展示していた。

デジタルサイネージの配信ソリューション

 また、デジタルサイネージには、そこに表示するコンテンツを配信するシステムが必要となる。そのためのサーバーやシンクライアントなども持つ。店頭に置かれたハードについて、デジタルサイネージからキオスク端末まで、1社で対応できるのがHPである。

デジタル機器の連携が顧客体験を高める

 POSの目的は「どんな商品が、いつどこで売れたか」を正確に集計し、在庫状況の把握や適切な調達に役立てる点にある。しかし、昨今ではITとその周辺領域を取り込み、さらなる進化を遂げている領域でもある。

 もともとPOSシステムに蓄積されたデータは小売店におけるマーチャンダイズの要だが、このデータをマーケティングやビジネスインテリジェンスといったシステムと接続すれば、企業としてより効率的な意思決定が可能になるだろう。

 NRFの会場では、各社がこうしたデータ解析の分野に意欲的な姿勢を見せていた。例えば、昨年あたりから急に注目を集め始めた、非構造化データの解析(ソーシャルメディアや検索エンジンの利用動向など、データベース化されていないデータの解析)、ほかにもパーソナライズ、リコメンデーションなどウェブのECサイトなどで培われた技術を積極的にPOSシステムとつなげようとする意志が見えた。

7mmと非常にベゼル幅の狭い、マルチタッチ対応のディスプレーを並べた展示。触れて使うというコンセプトであるため、手の届く範囲(47型ディスプレーを2×3台=108インチ)にとどめているが、台数に制限はない。これでするAngry Birdsは圧巻。なお、CoaningのGorilla Glass使用で強度も十分。画面に表示されたドラムを叩いて音を鳴らすデモなども実施されていた

 また、大型のディスプレーにAR技術などを組み合わせ、リッチなサービスを展開する展示も花盛りだった。例えばディスプレーの上部に備え付けたカメラで大画面に自分の姿を映し、AR技術でカタログ化された服を重ねてバーチャルの試着をするといった展示は、様々なメーカーのブースで見られた。

 また、カタログ写真を3Dモデル化し、様々な角度から眺めるといった取り組みも見られた。紙にプリントアウトしたカタログでは分かりにくい商品の形状やデザインの魅力を感じ取ることができる。さらに画面上に手を触れてジェスチャー操作すれば、そのブランドの素性や製品の特徴が参照できたり、スマートフォンをかざすことでクーポンや決済システムを利用できたりと、デジタルを活用して顧客が主体的に商品を知る仕組みが提案されていた。

タッチ可能なデジタルサイネージでインタラクティブなカタログやインフォメーションを表示。ユーザーの注目を引くとともに、セルフサービスによる効率化も可能となる

左上のサイネージは、バーコードやNFC(近距離無線タグ)の読み取りも可能。NFCはAndroidスマートフォンなどへも搭載が進んでいる。会員書やユーザーの購入履歴などを参照してキャンペーンを適用したり、表示する情報をパーソナライズすることができる

 これらはあくまでも活用提案の段階で、仮に設置されるとしてもアンテナショップ的な意味合いの強い専門店が中心となるだろう。とはいえ、いずれにしてもパソコンの性能向上がキオスク端末、サイネージの多機能化に貢献しているのは事実。NRFの会場で感じ取れたのがこうした店頭ソリューションのリッチ化である。

Seamless Customer Experience

 こうしたPOSシステムの進化と店頭ソリューションのリッチ化の流れを踏まえてHPが提案するキーワードが“Seamless Customer Experience”つまり、シームレスな顧客体験である。

 IDCなどの調査を元に、同社が提示した資料では、リセラー(販売店)の41%が、POSシステムを統合し、マーケティングやマーチャンダイジングに活用したり、デジタルサイネージを使った顧客とのインタラクティブなやり取りに活用していきたいと考えている。

 さらに40%がデジタルサイネージ、58%が顧客の持つモバイルデバイスとの連携、34%がウェブに対応したキオスク端末の導入を検討しているという。

 こういった市場の要請に対して、HPが持つ強みは「アフォーダブル(安心して買える)」「柔軟性の高いストアプラットフォーム」「パートナーとの提携」「モバイルとの統合」「消費者を中心に据えたデザイン」の5点であるとした。

 簡単に言えば、これまで個別に存在してきたデジタルの技術をつなぎ合わせて、顧客の満足度を高められるもてなしを提供するためにHPとして何ができるかを示している。上述したようにHPは、POSおよび店頭ソリューションに必要なハードウェアを一括して提供でき、それを生かすソフトメーカーやシステムインテグレーターとの関係も深い。こうした経験を活用し、顧客のニーズに柔軟に対応できる点を積極的にアピールしていきたいという意図だろう。

Seamless Storeでは、スマートフォントの連携やパーソナライズ、オンラインとリアルストアの融合などがキーワードに挙げられた

 そして同社が提案する「Seamless Store」は、以下の5つのポイントによって構成されている。

  • Attract(注目の喚起)
  • Diffrentiate(差別化)
  • Personalize(パーソナライズ)
  • Maximize Productivity(生産性の最大化)
  • Retain(顧客の維持)

 以上は概念的な話であり、リッチな店頭ソリューションをPOSを中心としたリテール向けのシステムとどうつなげ、「店頭でのもてなし」というパッケージに落とし込んでいくのかについては具体的な説明はなかった。

 とはいえ、これらをつなぎこむためには、別個に存在しているシステムを連携させられるプラットフォームをつくり、その上でインテグレーターが使いやすいAPIを提供していくことが必要だろう。こうした環境の整備をHPが主導権をもって進めていくメッセージと取った。

 またHPが強調していたのが「オンラインストア」と「リアルストア」の融合である。「これまで孤島状態にあった両者をシームレスにつなげる必要がある」と同社の幹部はコメントした。

 ウェブサイト・モバイル(スマートフォン)・リアル店舗のチャンネルを統合し、これらを横断したプロモーションやブランディングを展開し、顧客の注目を喚起。サイネージなどを活用した、独創的で変化のある店舗空間の創出。パーソナライズ技術を利用した、自分限定と思えるサービスの提供。モバイルPOSやキオスク端末などを活用した決済時間の短縮と効率化……。これらがシームレスに連携していくことで、顧客の満足度が向上し、ふたたび店頭(や施設)に足を運びたくなる体験が生まれる。

 こうした店舗を構築するために、懐の深いソリューションを抱えているのがHPである。これが世界、あるいは日本でどういった形で実を結ぶのかは注目していきたい部分である。

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