このページの本文へ

まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第32回

サンライズ尾崎雅之氏インタビュー(中編)

TIGER & BUNNYの育て方を尾崎Pに聞く

2012年07月17日 09時00分更新

文● まつもとあつし

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

テレビアニメ初の試み、Ustream同時配信は大成功

―― 関東圏の視聴者にとってTIGER & BUNNYは、Ustreamでの配信が先行したことも大きなポイントでした。

尾崎 「今回こちらからの提案に、MBSさんサイドが『面白い、やろうじゃないか』と応じてくださったんです。MBSの深夜放送を初出としつつ、Ustreamでの連動配信を行なう――これはテレビアニメ史上初の試みです。

 深夜帯中心で、かつ放送地域外の方にも同時に楽しんでもらいたい。できるだけ費用対効果の高い方法はないか? と検討しました。“同時視聴することで、その体験を共有する感覚”を生み出したかったのです。

 そうなると、やはりインターネットを利用するのがベストです。加えて『みんなと一緒に観ているんだ』という感覚を共有する手立てが欲しい。そこでUstreamに注目したというわけです」

テレビアニメ初の試みとなる、Ustream同時配信を発表した記念すべきTweet。ところが半日後に東日本大震災が発生してしまったこともあり、当時のリツイート数はかぞえるほどだった

―― あえて同時視聴を指向した理由は。

尾崎 「ほんの数年前まで、映画館での鑑賞を除けば、映像は1人で楽しむものでした。それが『ちょっと変わってきたのかな』と感じていたのです。大勢で体験を共有したい、つながりたい、というニーズが生まれているのではと。

 そこで、番組放送後の追いかけではなく同時に、というところに拘りました。正確には配信の仕様上、数秒ずれていますが体感上は問題ないかと(笑)。ただ、運営側としては、ずっとリアルタイムで張り付いて手作業で配信開始のオペレーションをしたりと大変でした」

―― よくMBSさんがOKを出しましたね。

尾崎 「そこですね。MBSさん以外では、いくつかのハードルは越えられなかったでしょう。地上波でなければ他にも選択肢はあると思いますが、やはり伝播力を考えると、地上波は厳然とした力を持っています。

 なにより、MBSさんはアニメのブランド・発信力が非常に強いのです。ちなみにTIGER & BUNNYは『*アニメシャワー』という、関西では有名なアニメ枠で放送できました。

*1990年代後半に生まれたMBSの深夜アニメ枠で、毎週土曜日25:58~27:58の2時間に計4作品を放送するのが通例。TIGER & BUNNYはこの枠で2011年4~9月に放送された。

 その枠の一番手がTIGER & BUNNYで、そこからアニメ番組が2時間続くのです。関西のアニメファンの視聴習慣にかなり食い込んでいますから、オリジナル作品が打って出るには強力な武器となる枠でした。そこに同時配信も認めてもらったので、これはすごく大きかったですよ」

―― MBSさんのメリットは何だったのでしょう?

尾崎 「MBSでの放送中に、“同時に”Ustreamやそれと連動するTwitterの盛り上がりが起こることによって、放送が関西のみであるにも関わらず、全国的にTIGER & BUNNYの話題が拡がるという現象が起こりました。

 結果的に、MBS放送圏内の人々が『一緒に盛り上がろう』と録画ではなく生放送を視聴してくれる動きにもつながり、視聴率も比較的よかったですね。イメージとしては、Twitterの画面をパソコンで見ながら、テレビも同時に視聴している、という動きが拡がったわけです。

 同時じゃなかったら、ここまでの動きにはならなかったと僕は思います。

 特に最終回は驚異的な視聴率になりました。それまではおおよそ2%前後だったところが、最終回は3.8%にまで上がったのです」

―― それはずいぶん急に高くなりましたね。

尾崎 「深夜で、しかも当日は少し延長して始まったのですよ。深夜3時前までかかる放送だったにも関わらず3.8%。同時にUstreamの接続数も過去最高の7万7000を記録しました」

(C)SUNRISE/T&B PARTNERS, MBS

―― しかも当日は、コアなファンは全国各地の劇場で開催されたオールナイトのライブビューイングに足を運んでいます。にもかかわらず、ですよね。

尾崎 「劇場も2万人以上のファンにご来場いただいたことを考えると、この視聴率は普通では説明が付かない。

 キラーコンテンツになれば、テレビの視聴率・ネットの接続数(Ustream)・ライブビューイングイベントの3つが、食い合うことなく相乗効果を上げられるという事例ができてしまったわけです。この結果・数字を今後の作品にどう活かすか、なかなか悩ましさもあります」

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ