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2012年、日本のITはどうなる? 第3回

2012年はグローバルへの進出も視野に?

省エネとロケーションに焦点が当たったデータセンター

2011年12月27日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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2011年はクラウドでの利用や3・11の東日本大震災での災害対策を見据えたデータセンターの建設が相次いだ。こうしたデータセンターには省エネやロケーションというテーマが絡み合っていた。そして2012年は、グローバル化が大きなテーマになるかもしれない。

6件のデータセンター見学で学んだもの

 2011年の年始、筆者は3つのデータセンターの見学を今年の目標に掲げた。NTTコミュニケーションズの東京第5データセンター、IIJの島根データセンター、そしてさくらインターネットの石狩データセンターである。通常、データセンターは顧客のサーバーが入ってしまうと見られない(もしくは撮影できない)ため、記事を書くならオープン時に限る。上記の3つは2010年に竣工が予定されていたデータセンターで、ぜひ開所時に中を見てみたいと思い、事前にアプローチをかけていたものだ。実際には、日本ラッドの排熱型データセンター、KVHの印西データセンター、運用中ながらビットアイルの第4データセンターも見学できたので、2011年は計6件のデータセンター見学が実現できた。特に11月の石狩データセンターは、2日間かけてみっちり取材できたため、計5本という大型特集になった。

 「どんだけデータセンター好きだよw」「データセンターってそんなに違うのか?」という声もあるかもしれないが、現場を見るのはメディアとしてやはり重要だと思う。「島根データセンターは出雲縁結び空港からどれくらいの時間とコストで着くのか?」「海からほど近い石狩の寒風はどれくらい厳しいのか?」「3・11の震災の時、東京第5データセンターはどれくらい揺れたのか?」などは、すべて見学してみないと記事にはできない。あとは、現地での記者やアナリストとの情報交換もなにげに面白い。現地でないと得られない情報や会話があるものだと実感した一年だった。

石狩データセンターはまじで寒かった

 詳細は、それぞれ記事を見てもらいたいが、最大のポイントはやはり省エネだと思う。省エネに関しては、今さら言うまでもないが、どこも相当気を遣っている。外気冷却やキャッピングなど冷却方式の改良のほか、自然エネルギーの取り込み、高電圧直流給電(HVDC)など、さまざまな施策が見られた。ラックの収容密度、空調のコストはデータセンタービジネスの根幹に直結する問題であり、PUEという数値でエコ度を見られる現在、省エネはデータセンターに必須のスペックといえる。

 こうしたデータセンターに製品を提供する側のベンダーも、おのずと省エネに配慮せざるをえないようになる。なにしろ、データセンターでのIT機器の導入額はエンタープライズの比ではない。サーバーやストレージはもちろん、ネットワーク機器に関しても電力消費を少なくしなければ、選定条件をクリアできないわけだ。こうした省エネ技術は、昔から国産ベンダーの十八番だったが、最近は外資ベンダーも盛んにアピールしている。速い割に電力を食うアメ車のようなサーバーは、もはやデータセンターでも、オフィスでも歓迎されないわけだ。

 一方、3月の規制緩和により事実上解禁になったコンテナ型データセンターに関しては、IIJ島根データセンターでの採用はあったものの、思いのほか盛り上がらなかったなあ、というのが正直な感想。モジュール構成で容易に増やせるのはよいが、やはりITモジュール自体が汎用化しないとユーザー側のコストメリットも出にくい。また、災害の多い日本のような土地柄では、堅牢な建物にラックが並んでいる方が安心感があるのかもしれない。

ロケーションが大きなテーマに

 もう1つのポイントは災害対策だ。災害対策に関しては、3・11東日本大震災の影響が大きい。自社ビルにサーバーを設置していた企業の多くは、3月の計画停電や8月の計画節電で大きな影響を被った。そのため、データセンターへの問い合わせは急増し、ビル構造や地盤など災害対策としてのスペックに注目が集まった。

 また、これに関連して、データセンター選定の条件としてロケーションが大きくクローズアップされたのも2011年の傾向だ。もとよりデータセンターは災害からサーバーを守るべく設計されている施設ではあるが、多くの企業はデータセンター自体が壊れるとか、停電で給電不能になるといったBCPを想定していなかった。そこで、データセンターの7割が集中する首都圏以外にDRサイトを構築したり、メインサイト自体を移すといったことも検討された。今まで首都圏から遠いのはデメリットだったが、BCP的な観点として、離れている点がメリットとして認識されることも出てきたのだ。

 こうした動向から、西日本でのデータセンター建設計画も数多く発表された。また、ソフトバンクテレコムやデータホテル(旧ライブドア)のように韓国でのデータセンターの販売を始めたところもある。来年には震災の影響で着工が遅れていたヤフーグループの福島県白河のデータセンターが竣工する予定となっている。実際にビジネスに結びつくかは未知数だが、データセンターの地方・海外移転は確実に進みつつある。

ソフトバンクテレコムのプサンデータセンター

 とはいえ、各事業者の話を聞く限り、災害対策に関しては、問い合わせの割りには、ビジネスに結びついた実例が少なかったようだ。災害対策に関しては「のど元過ぎれば……」という企業が多かったのかもしれない。

 今後は災害対策ではなく、企業のグローバル化という点でも、データセンターのロケーションは1つのテーマとなるはずだ。10・11月に行なった第2回メディア横断企画「グローバルICT討論会」でも論議に挙がったが、グローバルでの売り上げが大きい日本企業の場合、ITシステム自体が必ずしも国内にある必要はない。アジア市場への進出を加速する企業では、今後データセンターやDRサイトの海外移設を本気で考えなければならないだろう。

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