人は「自分が正しい」と思うことで安心したい
會川 今って、ランキングとか勝ち組・負け組とか、いろんなところで目にしますよね。あとはネットでも、見ず知らずの他人を批判する声がよく流れてきたりする。これは人間の性分だからしょうがないとも思うんです。人間が持つある種の潔癖さがなせる技なのかなと。
―― 批判は、潔癖さから来るものだと?
會川 そう思います。人間は、これは正しいかどうか、良いことかどうか、はっきりさせたいんです。そうしないと気が休まらない。そして自分は常に正しい側でいたいんですよね。政治家批判とかもそうですけど、潔癖さを要求する行為って自分ではなく他人に向くんです。他人に潔癖さを向けることで、自分が正しい側でいたいから。
―― 人はなぜ潔癖になるんだと思いますか。
會川 僕もよくわかるけど、人って“揺るがない強い何か”を持ちたいんだと思うんですよ。強くて、明らかで、確かなものをね。自分の軸がブレてしまわないように。
でも誰しも、人間というのはブレるものなんです。
最初にお話ししたように(前編)、新十郎は真実を追う探偵という仕事をしつつ、人の罪を暴くことが正しいのかと迷っているような“ブレる主人公”にしたんですが、ブレる人間は今の時代に急に増えたんじゃなくて、昔から人間とはブレるものだった、そう思うんです。
人間、誰でもブレないに越したことはないと思っている。誰だって、自分が考えたことが一番正しいと思いたいし、自分は正しいことをやれる人間だと思えたほうが心が楽。
だから、正しい答えがどこかにあるんじゃないかと探して、周囲で信じられている価値観に身を委ねたり、教典とか教祖的なものを見つけてすがる。それはパチンコの攻略法を求める行為とあんまり変わらないような気もするんですけどね。
一体何が正しいのか。その答えは本来はないと思う。新十郎もずっと答えを探し続けているけど、やっぱり答えは出ないわけです。それで、自分が正しいと思い込みたいがゆえに、自分以外のものを「○○はダメだ」と批判してしまう。
―― 自分が正しいと思い込もうとする限り、他者への偏見はなくならないと。
會川 そう思います。これは経験から思うんですが、偏見で嫌な思いをした僕だって、自分が持つ偏見はなくせないんですよ。
自分も、仕事上知ることになったあるコンテンツに対して……コンテンツというより業務形態なんですが、自分の中で受け入れられない気持ちがあるんです。自分が子供の頃にはなかったような、まったく新しい業態が成立している。すごいな、興味深いなとは思っても、自分の中ではなかなかに受け入れがたい。
ただ、そこで全てを否定するのは嫌だなと。だって、コンテンツそのものは悪じゃない。そこで働いている人たちも悪じゃない。むしろ仕事をきちんと全うしているわけだから。
自分の頭で考えずに、「~はだめだ」と無条件に批判ばかりやっていると、最後は自分に跳ね返ってくると思うんですよ。
―― 批判は、自分に跳ね返ってくるものだと思うのはなぜでしょうか。
會川 たとえば、ネットとかで「アニメを見ているようなだめな人間」という言葉を目にしたりする。それはかつて他人から悪く言われた経験なのか、どこかで見聞きした言葉を見てだめなんだと思ってしまったのか、両方なのかもしれないけど。
でも、そういう人に限ってすごくアニメを見ていたりもする。だから僕なんかは、おいおい、自分たちが好きなアニメをそんなふうにおとしめていいのかよ、って思う。だめかどうか、偏見のレッテルを貼っているのは、結局自分なんですよね。自分がだめだと批判しているものを見続けていると、アニメを見ている「だめな自分」ということに繋がっていっちゃう。それじゃあ悲しいじゃないですか。
―― 対象を否定することが、その対象を好きな自分を否定することになってしまうわけですね。
會川 そう。否定しているものが好きな自分、そうなると自分を肯定できないでしょう。だったら肯定すればいいじゃんと。
そもそも、アニメを見ているからダメって誰が決めたの、って。だめかどうかというのは自分が決めることですよ。本当に好きなものなら、ちゃんと好きだったら、「アニメを好きな自分」も好きでいいんじゃないの、と僕は思うんです。
僕の1つ上の世代、今の50代、60代だったら、大学受験に1回失敗すると、その1年間の浪人の間、名画座で250本くらい映画を見ているだけの人がいっぱいいたわけですよ。
映像業界にいる者なら素晴しいと言えるし、今では映画も教養のひとつという捉え方もある。だけど親から見れば、夕飯時に家の食卓にもつかないで、ずっと外に行ったっきり250本映画を見ているのはだめな子だと思うよ(笑)。じゃあどっちがだめなんだ、ということだと思うんですよ。
―― 「~はだめだ」というジャッジは、時代によっても立場によっても変わりそうですね。
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