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山谷剛史の「アジアIT小話」 第10回

スマホ時代の中国ニセモノ作り力を再考する

2011年11月29日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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山寨機とメーカー製品の品質の違いは?

深センのケータイパーツ市場

深センのケータイパーツ市場

 では実際、中国の山寨機の品質は改善しているのだろうか。

 山寨機は「単純に組み立てただけのモノ」であり、それ以上でもそれ以下でもない。各社(各工場)がリリースする山寨機のスペックが突然同じタイミングで向上するが、これは携帯電話向けLSIの新製品が山寨機工場向け市場に横流しされたタイミングとおおむね一致する。

 特に台湾聯発科技(メディアテック)は、同社のLSIが山寨機によく載っていることから、「山寨機の母」とも呼ばれる。

 リリースされたLSIが高速であれば、レスポンスが軽快な本体も登場する。同社のスマートフォン向けチップ「MT 6573」搭載スマートフォンも登場しており、その軽快さは「android mt6573」を検索キーに動画検索してみても確認できる。

 ただ、あくまでマニアウケしているだけであり、市場に浸透しているとは全く言えないし、キャリアが大通り沿いなどのキャリアショップでタダ同然でメーカーのAndroidケータイを提供している以上、今後もハイエンドな山寨機が普及するとは思えない。

 「スマートフォンや携帯電話の心臓部にメディアテックのチップを利用する」ため、処理速度的にはどれも一緒なのだが、たまに高価ながら「W-CDMAデュアルSIMスロット搭載スマートフォン」といった差別化を図ろうとするチャレンジングな製品も登場している。

 外国でも使いたいし、日本においても「日本通信(b-mobile)SIM2枚挿し」で使ってみたい魅力的な製品だ。ざっくりいえば「部品さえ流通していればくっつけて製品化」するため、メーカーが現状のパーツで作れる製品を出し渋ると、いつの間にかその基本スペックの山寨機が世界各国で売られてしまっているかもしれない。

深センの山寨機市場。こうしたフロアから構成されるビルが何棟もある

深センの山寨機市場。こうしたフロアから構成されるビルが何棟もある

 スペックは横並びだが、品質に差はあるのだろうか。昔から山寨機をときどき購入しては利用する筆者の経験では、「壊れた時に修理がきかない」と言われるのが山寨機ではあるが、では「壊れやすいのか」といえば、山寨機もメーカー品も同じ程度で壊れやすいように思う。

 つまりメーカーのモノ作りにおいて、山寨機より大手メーカー製品のほうが丁寧に作っているわけではない。それは筆者が中国に滞在し始めた10年近く前から変わらない。逆に品質面で劣化製品が増えているかといえば、そういった苦情件数や検索件数も横並びであり、変化は見られない。

 ソフトウェアによる付加価値は、iPhoneに似せようとする製品以外はOSの標準設定のままで工場出荷するケースがほとんどだ。山寨機のOSは以前はメディアテックによる「MTK OS」ばかりだったが、Android搭載山寨機の登場で、山寨機といえど使い勝手は劇的に向上した。

 つまりLSIにしろOSにしろ、中国品質ではあるが部品が市場に流通すればなんでもくっつける。ハードであれソフトであれ部品が出れば、製品のスペックは一斉にアップし、それが中国へ、中国国外へと流れることになる。

 最後に余談となるが、品質面で山寨機とメーカー製品は変わらないのだから、個人的には「中国でスマートフォンを買うなら、メーカー品より山寨機を選ぶ」気持ちが強くなってきた。購入時に店頭で起動して異常はないかをしっかり調べることによりトラブルはある程度回避できる。

メーカー製品は、よーく見るとGoogle関係のアイコンがない

メーカー製品は、よーく見るとGoogle関係のアイコンがない

 実は最近の中国のメーカー製Androidスマートフォンは、実機を触ってみるとYouTube、Googleマップ、Gmail、Facebook、Twitterといった国情にあわないアイコンが用意されていないものばかり。

 こうした状況に対してGoogleのサービスが必要なユーザーはrootでログインしてGoogle関連のソフトを入れて対処しようとする。一方で山寨機はAndroidを入れただけで変にいじってないだけに、デフォルトのGoogle関連のアイコンは残ったまま。中国で利用できないFacebookのアイコンを載せたものもある。

 日本人や外国人が中国駐在とかでやむなくAndroidスマートフォンを買う場合は、工場出荷時の設定に注意されたし。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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