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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第127回

CPU黒歴史 いくつ知ってる? 幻のマイナー系x86 CPU

2011年11月21日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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MemoryLogix MLX1

 まったく異なるアプローチで、x86市場に参入を試みたベンダーもある。2000年に創業されたMemoryLogix社がそれだ。同社はモバイル分野、正確にはARM10/11が使われるような携帯機器にx86 CPUを使うことを想定。これに適したプロセッサーを開発し、IPライセンスとして提供するビジネスを始めようとした。

 以下の画像は、MPF2002での同社講演資料からの引用である。例えばプロセスを同一と仮定した場合、ARM10のダイサイズを1とすると、既存のx86プロセッサーはどれもARM10の10倍以上のダイサイズを必要としている。同社はこれを、ARM10の2.5倍程度で実現しよう、という目標を掲げた。

プロセッサー ARM10基準のサイズ比
ARM10 1
インテル ULV Pentium III-M 13
AMD Duron 14
トランスメタ Crusoe TM5800 10
VIA C3 12

MemoryLogix「MLX1」の概要。構成は後で出てくるが、3スレッドのSMT構成。これで2.5倍の性能が狙えるのかは正直「?」

 これをどう実現するのかだが、まずは稼動しているWindows 95上でのアプリケーションを調べる。ほとんどの命令はARMでも使われている典型的なRISC命令なので、これらが高速に実行できればそこそこに性能が出る。こうした目処を元に、それを実現するシンプルなCPUコアを設計したというわけだ。

MLX1のコンセプト。当時は「携帯機器にWindows 95は載ってないだろ」という時代だったが、既存のx86が進出していない市場を狙ったので仕方なかったのかもしれない

MLX1の構造。基本的には1命令/サイクルのパイプライン。パイプラインが空きそうになったらすぐに次のスレッドを投入することで、パイプラインを常にフル稼働させる……というアイデアだった

 ちなみに設計目標(シミュレーションの結果らしい)では、0.13μmプロセスで400MHz駆動を想定した場合、CPUコアが3.5mm2で、MMXユニットが1.0mm2、FPUが1.5mm2の合計6.0mm2で構成できるとしていた。ARMの「ARM 1026EJ-S」が同じ条件の場合、コアのみで2.6mm2、キャッシュ込みで4.6mm2程度になるので、おおむね2.5倍という目標がはたせたとしていた。

 これが実現していれば、Atomなんぞを待たなくてもx86を搭載した携帯電話がありえたかもしれないが、あいにくそうはならなかった。最初に述べたとおり、MLX1はIPライセンスでの提供なので、どこかの半導体ベンダーがこのIPを買って、SoCの形でシステムを作る必要がある。だが、そうしたベンダーはついに出現せず、MemoryLogix自身が破綻してしまう。

 その後、(一時期トランスメタのCEOを務めたこともある)Matt Perry氏が立ち上げたMontalvo Systems社に、MemoryLogix創業者のPeter Song氏も参画。さらにx86のシミュレーターや仮想化に詳しいKevin Lawton氏も加わって、今度はファンドなどから大量に資金を集めて、やはりMLX1と似たようなプロセッサーの開発を始めた。しかし、こちらも製品が出る前に破綻しかかり、最終的にSun Microsystemsに買収されて終わった。

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