MemoryLogix MLX1
まったく異なるアプローチで、x86市場に参入を試みたベンダーもある。2000年に創業されたMemoryLogix社がそれだ。同社はモバイル分野、正確にはARM10/11が使われるような携帯機器にx86 CPUを使うことを想定。これに適したプロセッサーを開発し、IPライセンスとして提供するビジネスを始めようとした。
以下の画像は、MPF2002での同社講演資料からの引用である。例えばプロセスを同一と仮定した場合、ARM10のダイサイズを1とすると、既存のx86プロセッサーはどれもARM10の10倍以上のダイサイズを必要としている。同社はこれを、ARM10の2.5倍程度で実現しよう、という目標を掲げた。
プロセッサー | ARM10基準のサイズ比 |
---|---|
ARM10 | 1 |
インテル ULV Pentium III-M | 13 |
AMD Duron | 14 |
トランスメタ Crusoe TM5800 | 10 |
VIA C3 | 12 |
これをどう実現するのかだが、まずは稼動しているWindows 95上でのアプリケーションを調べる。ほとんどの命令はARMでも使われている典型的なRISC命令なので、これらが高速に実行できればそこそこに性能が出る。こうした目処を元に、それを実現するシンプルなCPUコアを設計したというわけだ。
ちなみに設計目標(シミュレーションの結果らしい)では、0.13μmプロセスで400MHz駆動を想定した場合、CPUコアが3.5mm2で、MMXユニットが1.0mm2、FPUが1.5mm2の合計6.0mm2で構成できるとしていた。ARMの「ARM 1026EJ-S」が同じ条件の場合、コアのみで2.6mm2、キャッシュ込みで4.6mm2程度になるので、おおむね2.5倍という目標がはたせたとしていた。
これが実現していれば、Atomなんぞを待たなくてもx86を搭載した携帯電話がありえたかもしれないが、あいにくそうはならなかった。最初に述べたとおり、MLX1はIPライセンスでの提供なので、どこかの半導体ベンダーがこのIPを買って、SoCの形でシステムを作る必要がある。だが、そうしたベンダーはついに出現せず、MemoryLogix自身が破綻してしまう。
その後、(一時期トランスメタのCEOを務めたこともある)Matt Perry氏が立ち上げたMontalvo Systems社に、MemoryLogix創業者のPeter Song氏も参画。さらにx86のシミュレーターや仮想化に詳しいKevin Lawton氏も加わって、今度はファンドなどから大量に資金を集めて、やはりMLX1と似たようなプロセッサーの開発を始めた。しかし、こちらも製品が出る前に破綻しかかり、最終的にSun Microsystemsに買収されて終わった。
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