こうしたミスマッチはなぜ起こるのか? PC向けと組み込み向けでは、プロセッサーの売り上げ/経費のカーブがまったく異なることに起因する。下のグラフはPC向けプロセッサーの場合であるが、赤が経費で青が売り上げだ。例えば新しいソケットを採用する場合は、最長で1年程度前からマザーボードベンダーにデザイン資料を提供したり、パーツ供給を協力会社に依頼するといった作業が始まる。
しかしそれでも出荷までの準備期間はせいぜい1年で、それを過ぎると製品出荷が始まって急速に売り上げが立ち上がる。ここで問題がなければ、デザイン変更があるわけでもないので、そのあとサポート経費は急速にさがってゆき、おおむね3年程度で製品売り上げともどもゼロになる。
これが組み込み向けだとどうなるのか、というのが上の図である。製品出荷前に1年程度の準備期間がかかるとして、その後出荷開始してもいきなり売り上げが立ち上がるわけではない。出荷後に顧客のシステム開発が始まるからだ。早いものなら2年程度で市場に出るが、普通は3年程度の期間を要する。
しかも、顧客が製品を出荷したらいきなり出荷が増えるという可能性は、それほど高くない。通常はじわじわと増えていくだろう。おおむね出荷量がピークになるのは、出荷から3~5年後ということになる。しかもそこからの出荷も長く続く。顧客の製品が出荷されている間は常に売り上げがたつわけで、20年に達することも珍しくない。
一方でテクニカルサポートの経費は、PC向けに比べてずっと多くなる。理由のひとつは提供期間が長いことだが、そもそもPC向けに比べて機能や性能に関する要求がシビアであることも、テクニカルサポートの比重が大幅に増える要因となる。
つまり、PC向けと組み込み向けはまったくビジネスの様相が異なるので、それを同列に並べたら、「こんなコストばっかりかかって売り上げが立たないビジネスなんかやめちまえ」という判断になっても不思議ではないわけだ。PC向けと組み込み向けを同列に並べることがそもそも間違っているのだが、どうもAMDやインテルの製品展開を見ると、並べて考えているとしか思えない節がある。もっともAMDに比べれば、インテルはまだマシなのだが……。
ElanやGeodeでも、同じような判断が繰り返されたとしか思えない。かつての「RiSE m6P」をベースにした「SiS550」を、さらにDM&P社がリネームしただけの「Vortex86」が組み込みマーケット向けカード市場のマーケットをほぼ押さえきったことを考えると、Geode GX2やGeode LXは今でも十分に通用する性能だと思える。あるいはElanを捨てずに続けるだけでも、それなりに売り上げは得られたはずだ。
これらを全部投げ捨てたAMDの組み込み向けの定見のなさが、折角のいい組み込み向けCPUが黒歴史と化した主要因だと筆者は考える。
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