龍勢祭では、15分に1本の割合で龍勢が打ち上げられる。10分前になると空に煙火花火が打ち上げられて、人々に音と煙で龍勢の打ち上げ準備を知らせる。龍勢が打ち上げ櫓に据えつけられると、合図の白幣が櫓の頂部で振るわれ、やがて境内の太鼓櫓に流派の人々が登って、太鼓の響きと共に口上が読み上げられる。「東西、トーザイ、ここに掛け置く龍の次第は」から「椋神社にご奉納」に終わる口上の内容はさまざまで、世界平和、豊猟豊作、家内安全、そして今年は震災鎮魂……そんな人々の願いを乗せて龍勢は打ち上げられるのだ。
この動画は打ち上げに成功した龍勢。点火から上昇、背負い物の放出から落下傘の開傘まで、一連の動作がうまくいってら成功となるらしい。
これは失敗した例。打ち上げはうまくいったが、落下傘がうまく開かず、燃えながら地面に落ちてしまった……。ちなみに地上には消防隊が待機していて、火はすぐに消し止められる。
口上が終わると同時に導火線に点火。太鼓の音が高くなり、轟音とともに打ち上がった龍勢は空高くで炸裂して背負い物を放出する。色とりどりの煙がたなびくなか、燃焼が終わった火薬筒と矢柄は落下傘でゆっくりと風に乗りながら舞い落ちてくる。打ち上げ、背負い物の放出、そして落下傘による着地まで、一連の動作が上手くいって初めて龍勢は大成功となるようで、この点が数百数千の大輪の花を夜空に咲かせる通常の打ち上げ花火とはまったく異なる部分といえるだろう。
いよいよ「あの花」ロケットの番だ。プログラムによると、奉納者は「超平和バスターズ」、龍勢の製作者は「翼天飛流」となっている。翼天飛流は吉田龍勢27流派の中でも成功率が高い流派とのことで、その名の通り背負い物には毎年グライダーを搭載している。今回の「あの花」ロケットには、事前に募集した2000余名分のメッセージを詰め、劇中の超平和バスターズの人数と同じ6機のグライダーがくくりつけられているという。
太鼓櫓の上に翼天飛流の人々と登ったのは、なんとめんま役の声優・茅野愛衣さんと久喜邦康・秩父市長。しかもみんなお揃いの超平和バスターズ法被を着ての登壇だ。打ち上げ前の口上を担当したのは茅野さん。めんまの声で綴られる口上はどこか荘厳な雰囲気で、秋晴れの青い空高くに響き渡っていた。
動画は太鼓櫓への登壇から茅野さんの口上、ロケットの打ち上げから落下まで、その一部始終を撮影したもの。会場の喧騒で茅野さんの口上が聞き取りにくいと思うので、その口上の内容を以下に記しておこう。なおコンデジの動画機能で撮影したので、いくぶん映像が粗いのはご容赦いただきたい。YouTubeその他にもファンが撮影した動画も上がっているので、キレイな映像を確認するならそちらも探してみてほしい。
めんま役の声優・茅野愛衣さんによる口上(全文)
『東西、トーザイ、ここに掛け置く龍の次第は
自然豊かな秩父の里に、あの日見た花の名前を探しに来た「あの花」ファンの願いを乗せて。秋空高く舞い上がり、青き花を咲かせる。紅の炎龍よりあらわすは、翼天飛流の大技、グライダー6機の夢飛行。超平和バスターズの6人の思いを乗せて、澄み渡る秩父連山、上空高く飛遊する。
この正道は、ヤマさん率いる翼天飛流。巧みの技光る翼天飛流の力作にして、これを超平和バスターズの永遠の友情と、あの花ファンの皆様のご多幸を祈願して、1300年の歴史に輝く椋神社の前にご奉納』
「あの花」ロケットの打ち上げは大成功! 導火線の点火から離床までにわずかな間があるが、これは「本もやし」という、まず櫓の上で大量の煙を噴き出させる伝統の仕掛けだ。「あの花」のオープニングさながらに白い煙を引きながら上昇した龍勢は、中天でばらりと解けるように背負い物を放出。ファンからの熱いメッセージを詰めた矢柄の周囲を、6機のグライダーが煙の尾を引きながら風に乗って舞い飛んでいた。
こうして椋神社例大祭(龍勢祭)と「あの花」ロケットの打ち上げは大成功のうちに幕を閉じ、筆者は夕闇のせまる吉田の郷を後にした。龍勢祭が終わったその日の秩父市内では、いろいろなところで超平和バスターズの法被を着たファンが地域の人たちと一緒に大いに盛り上がっていて、この作品がいかに地域の人たちに愛されているかを、改めて実感することができた。
地方の伝統芸能とアニメ作品のコラボレートは、相互のバランスさえうまく取ることができたならば、お互いにその魅力を高め合う良い関係となるだろう。今回の「あの花」と龍勢祭もそうだが、かつてASCII.jpでも紹介した「true tears」と城端むぎや祭(麦屋踊り)(関連記事)とのコラボもまた、アニメ作品と伝統芸能が結びついて成功した最たる例だ。
あるがままの姿で、自然に溶け合いながら相互に魅力を伝えあう。そこにこそ、アニメと伝統芸能がコラボする際の成功の秘訣があるのではないか。秩父市内のあちこちに貼りだされた「あの花」と龍勢祭のコラボポスターを見ながら、旅の終わりにそんなことを考えた筆者だった。
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