作品の改変を許さなくなったのはつい最近の話
―― ソーシャルリーディングや筆者コメントが電子書籍に新しい付加価値をもたらすと言われています。川上さん自身、本の付加価値はどんなものが求められていくと思いますか?
川上 たとえばニコニコで生放送をやりますよね。人気番組だとコメントが10万件くらいつくんですよ。そのうち30%くらいが「wwwww」なんですけど、感想が多すぎると、Twitterでも検索に引っかからなくなってくる。コメントする場所が増えていくんだけど、コンテンツについての感想が得られなくなってくる。だから、コンテンツホルダーがコンテンツといっしょにコメントを保存することになるんじゃないか。つまり、コメントも含めた形でコンテンツになるんじゃないかと思うんですね。
―― フローだったものをストックしていくということですね。川上さんの話ですごく面白かったのは、ソーシャルによってコンテンツの寿命が延びるようになるという話です。
川上 二コ動を例にとると、コンテンツは引用されると“新しい情報”になるんですよ。コンテンツは1年前の情報かもしれないけど、引用は昨日だったりして。二コ動だと、ボカロや東方のブームがそれですよね。二次創作(引用)が拡散していたわけですから。引用によってコンテンツの価値が高まることになる。
角川 作品を「改変しちゃいけない」というのは、ここ100年くらいの話なんですよ。もともとは口承文化とかで、琵琶法師が語ったものを聞きながら、みんながその場で「いやそうじゃない、こうだ」と作っていったり、みんなで話を作っていった文化があるんですよ。インターネットという改変ができるようなハードが生まれてきたなら、“さわれる”ようにしてもいいんじゃないか。それは作家へのリスペクトを損なうものではないんじゃないかと。
川上 そのソーシャルな部分もふくめて「コンテンツ」なんだというのが、未来の著作権の姿だと思うんです。いまの著作権は英語でコピーライト、コピーできる権利ですけど、言葉そのものがネット時代に合ってないですよね。
―― なるほどと思ったのは、川上さんの新しい著作権の発想。ソーシャル化されたところでの社会権力というのは著作権ではなく「ユーザーの声」だと。著作権にふれるより、他のユーザーに叩かれて炎上するケースが増えているという話でした。
川上 いずれユーザーが権力を持つんじゃないかと思うんですよ。いまユーザーたちは既存権力に反発している人も多いわけですけど、“炎上”行為を通じて、逆に権力を持ちはじめている。これはどこかでルールをつくらないといけない。たとえばテレビの「あとでスタッフが美味しくいただきました」。あれはもうパロディになっているわけですよ。あれはテレビを見ている“良識あるユーザー”がクレームをつけて、そういうものができているわけです。ネットでもそういう「望まれないもの」(規制)ができてくるわけです。