BDは「絵と音」両方HDにしてこそ生きる
そう。テレビ放送も地デジ化がほぼ完了し、映像はハイビジョンが主流となった。だが、音はどうかといえば、テレビの内蔵スピーカーのまま。映像と音は車の両輪のようなもの。どちらかを立派にしただけではバランスが崩れ、まっすぐ走ることさえままならない。
テレビ放送だって基本はステレオだけれども、5.1chのサラウンド放送も増えている。そして、BDソフトならば、『HDオーディオ』と呼ばれるハイビジョン映像に相応しいロスレス圧縮音声による最大7.1chのサラウンド音声を収録するのが当たり前となっている。
せっかくフルハイビジョンの薄型テレビを手に入れ、購入するソフトもDVDからBDへと変えたのに、思ったほど良さを実感できないと感じている人は少なくないだろう。
映像と音のバランスが崩れているのだから、それは当たり前の話。音質が十分なクオリティーに達していなければ、映像本来の魅力も感じにくくなってしまうのだ。
中西 「それは理論的に正しい! 最近のアニメはテレビ放送に留まらず、劇場公開作品も増えていますが、それらは皆、サラウンド音声になっていますからね」
鳥居 「その通り。劇場では大スクリーンの迫力と釣り合うように、たくさんのスピーカーを使ってサラウンド再生をしている。この映像と音の関係は、家で楽しむときだっておろそかにはできないもの。家庭では画面サイズが小さくなるぶん、音量も小さくなるわけだけれども、一緒にクオリティーまで落としてしまうのは間違いなんです」
中西 「なるほど。しかしですね、僕の書斎は狭くて5.1chのサラウンドシステムなんて導入できないんですよ」
鳥居 「そんな人のためにあるのが、バーチャルサラウンド技術。スピーカーをいっぱい使わずに、省スペースでサラウンドを楽しめるようにしたホームシアターシステムです。中西さんには、そのなかでもかなりの実力を備えた一台、ヤマハ『YHT-S351』を紹介しましょう」
YHT-S351で楽しむ『劇場版マクロスF~サヨナラノツバサ~』の音響(1)
文=氷川竜介
アニメの音は「血のにじむような調整」の賜物
映像が「つくりもの」であるアニメでは、音響が作品世界への没入感のコントロールに大きな役割を果たしている。『劇場版マクロスF~サヨナラノツバサ~』の5.1chサラウンド音響は、その重要性を確認するのに最適なサンプルである。
「歌」はマクロスシリーズの中心であり、『F』ではタイプの違う女性歌手が2人登場する。楽曲のアレンジや使われ方にも大きな意味が用意され、キャラ描写やドラマを底支えしている。さらに映画音響の3要素「D(ダイアログ=セリフ)、M(ミュージック=音楽)、E(エフェクト=効果音)」も、物語の進展とシチュエーションにマッチさせるべく、さまざまな工夫がなされている。
これらを存分に楽しむためには、「音場(空間)がひとつである」という意識が重要になってくる。大きな効果音や音楽が鳴ったときに同じ周波数同士が重なれば、セリフ(歌詞)を打ち消して聞きとりづらくなくなりかねない。
5.1chのミキシングではボリュームの上下以外にもスピーカーの定位や残響を駆使し、相互干渉をうまく避けて感情移入をさまたげないような工夫がある。
5.1chを2.1chでバーチャル再生する「YHT-S351」のような機器では、こうした作り手側の血のにじむような調整が有効か、臨場感を楽しめるかどうかが大きな評価ポイントとなる。