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英エネルギー業界の72%がSAPを利用!

英国のスマートメーターはSAP HANAのビッグデータで実現

2011年11月02日 09時00分更新

文● 渡邊利和

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11月1日、SAPは英国エネルギー市場におけるSAP AMIおよびHANAの活用状況に関する説明会を開催した。日本とは状況の異なる英国市場での状況ではあるが、一足先にスマートメーターの全戸配布を実現しそうな英国の状況は日本よりも進んでいる面もあり、参考になりそうだ。

英国での状況とHANAの関係

 英国では、2020年を目標に全世帯にスマートメーターの配布を完了する計画で、現在はロードマップに沿って段階的に導入が進められているという。現時点ではおよそ1,000万世帯にスマートメーターが配布済みで、スマートメーターによる遠隔検針と従来型の人手による検針が併用されている状況だ。

SAP UK & Ireland Limitedのユティリティ業界プリンシパルのマイケル・ルイス氏

 説明を行なったSAP UK & Ireland Limitedのユティリティ業界プリンシパルのマイケル・ルイス氏は以前の英国のエネルギー企業の状況について、「法的に義務づけられた検針回数は年2回なので、各企業はこの検針に基づいて各世帯の利用量を推計し、課金していたが、スマートメーターでは1日48回(30分に1回)の検針が可能になるため、利用量をリアルタイムで正確に測定でき、使用した分だけ支払うという新しい料金体系が実現できる」という。日本の状況を考えれば、料金決定の根拠となる使用量を推定に基づいて確定する、という慣習自体がそもそも信じがたいものだという気もするが、スマートメーターが各戸に配布されることで、こうした状況が一変し、使用者はそれぞれ利用量をリアルタイムにチェックし、効率改善に努めることも可能になる。

英国の将来のシステム構成。各家庭のスマートメーターのデータを読み取って業者に提供するDCCと呼ばれる新たなサービス事業者が設立される計画だ。

エネルギー事業者は、DCC経由でスマートメーターのデータを収集しつつ、移行期は従来型のアナログメーターにも対応したシステムを運用することになる

 同氏は具体的なデータ量については明言しなかったものの、1契約者あたりの1回の送信データ量はそう大きなものではないだろうと想像できる。メーターの計測値に契約者を個別に識別するためのID情報やデータの測定日時を合わせたとしても、10バイトもあれば余裕で収まりそうだ。ただし、それが契約戸数分だけ同時に発生するとなるとさすがに無視できない規模になりそうだ。現時点でのスマートメーター配布戸数が1,000万戸だということで、仮に一回のデータ量が10バイトだと仮定しても総計ではおよそ100MBという量になる。これが1日に48回繰り返されるので、おおざっぱにまとめると毎日約5GBのデータが生成される、ということになるだろうか。仮定だらけの概算だが、こうしたインフラがどの程度の規模のデータを生成するかの目安にはなるだろう。

 こうした大量データの処理を「ビッグデータ」と呼び、IT各社はその対応に向けてさまざまな製品や技術をそろえつつあるところだが、SAPではインメモリ型データベースアプライアンス「SA IN-MEMORY APPLIANCE(SAP HANA)」で対応し、さらにスマートメーター対応としてはSAP Smart Meter Analytics(SMA)を用意している。SAP SMAでは、インメモリ型のデータベースであるHANAにスマートメーターからの大量のデータを蓄積する。データアクセスの高速性を生かし、分析のためにデータコピーを実行することなく、本番の業務システム上でデータ分析まで行なえるという。

SAP SMA(Smart Meter Analytics)の概要

SMAでは、スマートメーターの出力を生で扱うのではなく、パターン認識アルゴリズムによってパターン化することで迅速に大まかな消費傾向を把握できるという

 英国での実例では、過去の年2回の検針に基づいて料金を決定していた経験から、使用量の推移変動をパターン化して消費動向を把握するためのアルゴリズムがエネルギー企業との共同作業でできあがっており、SAP SMAにはこうしたアルゴリズムも組み込まれているという。

スマートメーター導入のメリット

 従来の、いわばどんぶり勘定といった感のある課金からスマートメーターのリアルタイムの計測値に基づく使用量に応じた課金への移行は英国のエネルギー企業にとっては激変ともいえる変化であり、しかも基本的には法規制によるもので業界が望んだ変化ではないという面もある。ルイス氏は会場からの質問に答えて「エネルギー企業にとっては売り上げ減の可能性が高いのは確かだが、規制の導入は避けられない以上、この変化を前向きに捉えて顧客サービスの改善などにスマートメーターを活用していく方向での取り組みが始まっている」と語った。

 日本では、検針はおおむね月一回のペースで行なわれており、使用者は「使った分だけ支払う」体系になっていることを疑ってはいない。その点では英国とは出発時点での市場状況がまったく異なるが、日本でもスマートメーターの導入によるメリットはさまざまなものが想定できる。震災以降の電力供給状況から考えれば、比較的余裕のある夜間などは割安に、ピーク時の利用料金は高めに、といった具合に1日の中でも時間帯に応じてきめ細かく料金を変えることができれば電力不足対策として有効だと思われる。

 こうした料金体系を実現するためには検針によって1ヶ月の総使用量を把握するだけではだめで、それこそ1日48回といったきめ細かな使用量測定が必要になる。英国での事例を参考に日本でもスマートメーターへの移行が実施される可能性もあり、そうした状況を想定したシステムの検討をすすめておく必要もありそうだ。

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