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週刊セキュリティレポート 第20回

Androidもバージョンアップを

iOS 5は脆弱性も大量修復!スマホOSも最新にしよう

2011年11月14日 06時00分更新

文● 八木沼 与志勝/エフセキュア

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 2011年10月12日、アップルからiOS 5の配信が始まりました。筆者もそうですが、このリリースを待ちわびたiPhone/iPad/iPodユーザーは多かったのではないでしょうか。通知センサーやiMessage、リマインダー、Twitter連携、Wi-Fiシンク、さらにPCなしで利用が可能になる「PC Free」など、iOS 5にはユーザーの使い勝手を考えた素晴らしい機能が満載で、多くのユーザーが快適に利用していることでしょう。

 ユーザー待望のiOS 5ですが、新機能に加えて、とても大切な数多くのセキュリティアップデートも実装されています。詳細はアップルが公表しているセキュリティ更新機能ページに記載されており、情報の開示やその対応の適切さを含め、さすがアップルだと思います。今回はスマートフォンのOSアップデートのススメについてお話したいと思います。

多くの問題が修正されたiOS 5

 アップルが公開したiOS 5のセキュリティ更新内容を見ると、iOS 4.3.5以前のOSを対象に、以下にまとめるセキュリティ上の問題が修正されています。

iOS 5で修正されたセキュリティに関する問題
リスク/問題機能影響/説明
情報漏洩CalDAVCalDAVを利用する際、カレンダー情報を格納するサーバーが提示するSSL証明書が信頼できるものか確認していなかったため、CalDAVカレンダーサーバーからユーザーの資格情報などを入手できてしまう可能性があった
CFNetworkユーザーのApple ID のユーザー名とパスワードが、システム上のアプリケーションからアクセスなローカルファイルに保存されており、読み取られてしまう可能性があった
HTTP Cookieの処理に問題があり、悪意を持って作成されたHTTPもしくはHTTPSのURLにアクセスした際に、CFNetworkが当該ドメイン外のサーバーに不正にCookieを送信してしまうことで、情報を漏洩させてしまう可能性があった
CoreMediaサイト間リダイレクト処理に問題があり、悪意をもって作成されたWebサイトにアクセスした際に他のサイトのビデオデータが流れる可能性があった
データアクセスExchangeメールのCookie処理に問題があり、同じサーバーに接続するメールアカウントが複数設定されている場合に、1つのセッションで異なるアカウントのデータが同期される可能性があった
データセキュリティDigiNotarにより運営される認証局により発行された不正な証明書を信用する設定になっていたため、攻撃者がユーザーの資格情報などを入手できてしまう可能性があった
MD5ハッシュアルゴリズムを利用して署名する証明書は技術的に弱点があるにもかかわらず、受入れられてしまっていた。このためMD5起源のX.509証明書により成りすまし攻撃や情報漏洩が起こる可能性があった
サポートSSLのバージョンが暗号化における弱点を持つSSLv3およびTLS1.0のみであったため、ブロック暗号を利用する場合にSSL接続の一部を解読できる可能性があった
ホーム画面4本指のアプリケーション切り替えジェスチャによりアプリケーションを切り替える際、ディスプレイに以前のアプリケーションの状態が表示される可能性があり、切り替え前の機密のアプリケーション情報が見られてしまう可能性があった
libxmlパスワードの最後の文字の入力に利用したキーボードが、次にキーボードを利用した際に、短時間表示されるため、ユーザーのパスワードの最後の文字に関する情報を特定できてしまう可能性があった
WebKitHTML5のドラッグ&ドロップ処理にクロスオリジンの問題が存在し、悪意のあるWebサイトにアクセスしてページ内コンテンツをドラッグするとユーザー情報が漏洩する可能性があった
Web Workers(Webアプリケーションにおいてバックグラウンドでの処理実行を実現する技術)の処理にクロスオリジンの問題が存在し、悪意をもって作成されたWebサイトにアクセスすると情報が漏洩する可能性があった
beforeloadイベント処理にクロスオリジンの問題が存在し、悪意を持って作成されたWebサイトによって、そのフレームでユーザーがアクセスしたURLが追跡されてしまう可能性があった
WiFiパスフレーズおよび暗号化キーを含むWiFi資格情報が読み取り可能なファイルとして保存されていたため、アプリケーションによってWiFi資格情報が読み取られてしまう可能性があった
誤情報設定構成プロファイルを利用して行われた設定が、実際には正しく構成されているにも関わらず、英語以外の言語では正常に設定されていないように表示されていた
WebKitDOM historyオブジェクト(閲覧履歴)の処理にURL偽装の問題が存在し、悪意をもって作成されたWebサイトによってアドレスバーに異なるURLが表示される可能性があった
端末ハングアップUIKitアラート非常に長い文字列のtel: URIの認証ダイアログを読み込むときに、予期せぬデバイスのハングアップを発生させることができる可能性があった
カーネル不完全なTCP接続から即座のメモリ再要求を実施することはできないため、iOSデバイス上で待機しているサービスを経由してシステムリソースを消費させることでデバイスをリセットさせてしまうことが可能であった
IPv6ソケットの処理でNULLポインタ修飾参照の問題があり、ローカルユーザーがシステムリセットを発生させることができる可能性があった
クロスサイトスクリプティングWebKitユーザー名が埋め込まれたURL処理にクロスオリジンの問題があり、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスした際にクロスサイトスクリプティングの攻撃を受ける可能性があった
DOMノードの処理(文書成形処理)にクロスオリジンの問題があり、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスした際にクロスサイトスクリプティングの攻撃を受ける可能性があった
window.openメソッド処理がクロスオリジンの問題を持っており、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスするとクロスサイトスクリプティングの攻撃を受ける可能性があった
アクティブでないDOMウィンドウ処理にクロスオリジンの問題があり、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスするとクロスサイトスクリプティングの攻撃を受ける可能性があった
document.documentURIプロパティ処理にクロスオリジンの問題があり、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスするとクロスサイトスクリプティングの攻撃を受ける可能性があった
SafariiOS 4までは HTTP Content-Dispositionヘッダの Attachment 値をサポートしていなかったため、任意のファイルをインライン表示しようとする問題があった。このため、Webサイト上の悪意をもって作成されたファイルを開くことでクロスサイトスクリプティング攻撃を受ける可能性があった
任意のコード実行CoreFoundationメモリ破損の問題があり、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスした際にアプリケーションが異常終了したり、任意のコードが実行されてしまう可能性があった
文字列のトークン化処理の不具合でメモリ破損を発生させる場合があり、悪意を持って作成されたWebサイトや電子メールの表示によってアプリケーションが予期せず終了したり、任意のコードを実行することができる可能性があった
WebKitlibxsltのセキュリティ設定に問題があり、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスすることで、そのユーザーの特権により任意のファイルが作成され、任意のコードが実行される可能性があった
カレンダーカレンダー機能で参加依頼を利用する際、メモの処理においてスクリプトインジェクションの問題があり、悪意を持って作成されたカレンダーの参加依頼を表示してしまうと、悪意のあるスクリプトが実行されてしまう可能性があった
CoreGraphicsFreeTypeに複数のメモリ破損があり、悪意を持って作成されたフォントが埋め込まれた文書を表示した際に任意のコードが実行される可能性があった
ImageIOCCITT Group 4エンコードされたTIFF画像処理にバッファオーバーフロー問題があり、悪意をもって作成されたTIFF画像を表示すると、アプリケーションが異常終了したり、任意のコードが実行されてしまう可能性があった
ICU大部分が大文字で記載された長い文字列長の照合キー生成にバッファオーバーフローの問題が存在し、ICUを使うアプリケーションが異常終了したり任意のコードが実行されてしまう可能性があった
libxmlXMLの処理にバッファオーバーフローの問題があり、悪意を持って作成されたWebサイトにアクセスした際にアプリケーションが異常終了したり、任意のコードが実行されてしまう可能性があった
OfficeImportMS Wordの処理にバッファオーバーフローの問題があり、悪意を持って作成されたWordファイルを開いた際にアプリケーションが異常終了したり、任意のコードが実行されてしまう可能性があった
MS Excelファイルの処理にダブルフリー(メモリの同一エリアを2度以上開放してしまう不具合)の問題があり、悪意を持って作成されたExcelファイルを開いた際にアプリケーションが異常終了したり、任意のコードが実行されてしまう可能性があった
MS Officeのファイル処理でメモリ破損を誘発する問題があり、悪意をもって作成されたMS Officeファイルをダウンロードした際にアプリケーションが異常終了したり、任意のコードが実行されてしまう可能性があった
MS Excelファイルの処理にメモリ破損を誘発する問題があり、悪意を持って作成されたExcelファイルを開いた際にアプリケーションが異常終了したり、任意のコードが実行されてしまう可能性があった

 iOSには、「ikee」などJailbreak(脱獄)環境で感染するマルウェアが数種類ある程度で、マルウェア活動はほとんどありません(iPhoneも対象に!スマートフォンを狙うモバイルマルウェアとは)。しかし、マルウェアに感染させなくとも、iOS 4.3.5以前のiPhone/iPod/iPadを利用している場合には、上記表にあるようなセキュリティ上の問題を利用することで、ユーザーの情報を不当に入手することができてしまいます。また、任意のスクリプトを実行できる問題を利用することで、技術的には強制的にJailbreakを引き起こすことも可能になります。

 iOSにおいては、Jailbreakがマルウェア感染への第一歩となるため、Jailbreak対策は必須です。iOS 5へアップグレードは、iPhone/iPad/iPodに新たな機能と可能性を追加するだけでなく、自らのセキュリティを高くするためにもとても重要なステップです。

AndroidでのOSバージョンアップ状況

 スマートフォンにおいて忘れてはならないAndroidですが、Androidプラットフォームでは、iOSにくらべてはるかに多くのマルウェアが確認されています。Androidプラットフォームにおいては、セキュリティソフトであれマルウェアであれ、原則として一般ユーザー権限でのみ動作します。しかし、マルウェアの中には、Android OSの脆弱性を突くことで一般ユーザーから管理者(root)の権限に昇格して動作するものが数多く存在しています。

 管理者権を奪取されてしまった場合、一般ユーザー権限しか持たないセキュリティソフトでは駆除することはできませんし、デバイスを工場出荷時設定に戻しても、管理者権に昇格してしまったマルウェアは削除されません。Androidにおいては、工場出荷時に戻すというのはユーザーデータをすべて削除することとほぼ同義ですので、管理者権に昇格したマルウェアを消すことはできません。

root奪取型マルウェアは駆除が難しい

 こういったroot奪取型のマルウェアはAndroid 2.2以前で多く見つかっていた状況をふまえ、GoogleはAndroid 2.3で権限昇格の脆弱性を修正しました。現在ではGingerMasterに代表されるAndroid 2.3を対象にしたroot奪取型マルウェアも発見されていますが、ほとんどのセキュリティソフトでは対応済みですので、端末にセキュリティソリューションを導入済みの場合にはマルウェアの脅威は低減できていると考えて構いません。

 では、マルウェア以外でのセキュリティ上の問題はないのでしょうか。Androidといえども、やはりマルウェア以外のセキュリティの問題は発見されています。たとえばAndroidのSDカードのデータが抜き出されてしまう問題(Bugtraq ID:45048)が知られていて、Android2.2以前のOSを利用している場合に悪意のあるJavaスクリプトを実行することでSDカードに保存されたユーザーデータを抜き出されてしまうという問題があります。この問題はAndroid 2.3で修正されており、Android 2.3以降を利用するユーザーは影響を受けません。やはり、Androidにおいても、Googleが提供するOSのバージョンアップは、セキュリティ強化のための大切なポイントです。

 では、Android OSを搭載した各端末のOSアップデート状況はどうでしょう。次の表に代表的な端末のOSメンテナンスの履歴を記載します。まだまだ多くの端末でAndroid OSも最新版へのアップデートがされていません。ユーザーの皆さんは、各キャリアから提供されるOSのアップデート情報を確認したら速やかにアップデートを実施することが大切です。

代表的な端末のAndroid OSアップデート状況(ご利用のキャリアの最新情報を必ず確認してください)
キャリア機種内容実施時期
NTTドコモXperia SO-01B 1.6から 2.1へのバージョンアップ2010年11月10日
2.1のメンテナンスバージョンアップ2011年1月19日
2.1から 2.3へのバージョンアップは断念
REGZA Phone T-01C 2.1から 2.2へのバージョンアップ2011年5月18日
LYNX 3D SH-03C 2.1から 2.2へのバージョンアップ2011年6月7日
Xperia arc SO-01C 2.3のメンテナンスバージョンアップ2011年7月6日
MEDIAS N-04C 2.2から2.3へのバージョンアップ2011年10月20日
AQUOS PHONE SH-12C 2.3のメンテナンスバージョンアップ2011年8月25日
KDDI(au)IS01バージョンアップ断念
IS03 2.1から 2.2へのバージョンアップ2011年4月14日
IS04 2.1から2.2へのバージョンアップ2011年6月30日
IS05 2.2から2.3へのバージョンアップ2011年10月20日
AQUOS PHONE IS11 SH / IS12SH2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年8月4日
htc EVO WiMAX ISW11HT 2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年6月7日
ソフトバンクモバイルGALAPAGOS 003SH 2.2のメンテナンスバージョンアップ2010年12月22日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年2月3日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年4月12日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年6月30日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年7月15日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年8月15日
GALAPAGOS 005SH2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年6月30日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年7月15日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年8月15日
AQUOS PHONE 006SH 2.3のメンテナンスバージョンアップ2011年6月2日
AQUOS PHONE 006SH / 007SH 2.3のメンテナンスバージョンアップ2011年7月22日
desire X06HT/X06HT Ⅱ 2.1から 2.2へのバージョンアップ2010年 11月8日
2.2のメンテナンスバージョンアップ2011年8月3日

やはり大切なOSアップデート

 ソフトバンクモバイルとauの2キャリアからのiPhone 4S提供、そして各キャリアの冬モデルの発表と、話題に事欠かないスマートフォンですが、そのユーザーをもとめて多くの危険が潜んでいます。危険要素はウイルスをはじめとしたマルウェアの脅威を思い出す人は多く居ますが、実際にはマルウェアを利用しなくてもOSの脆弱性を利用することで情報を抜き出すといったことは技術的に可能ですし、マルウェアの恐怖が少ないと思われているiOSでも、やはり危険要素が含まれていました。

 こういった根本的な危険要素は、OSのセキュリティ上の問題を利用しているので、ユーザーはやはりOSのアップデートを実施することは非常に大切です。スマートフォンのOSをアップグレードすることで、端末の使い勝手が向上したり、便利な新機能が追加される場合が多いですし、ユーザーは利用するデバイスの最新OSがリリースされたら速やかにアップデートを実施することを強く推奨します。

 そして、Androidの場合には、さまざまなアプリケーションのインストール方法が提供されているため、マルウェアの侵入経路も多岐に渡ります。このため、OSを最新にした上で、セキュリティソフトを導入することを強く推奨いたします。セキュリティソフトの中には、ウイルススキャンだけでなく危険なWebサイトへのアクセスをブロックする機能を有するものもあります。マルウェアのダウンロードの防止だけではなく、不正なJavaスクリプトの脅威の対策にもなります。セキュリティソフトの選択の際にはWebアクセスのセキュリティ対策が可能なものを選択することで、より安全なスマートフォン利用環境を整備することが大切でしょう。

初出時、タイトルにミスがありました。お詫びし、訂正させていただきます。(2011年11月14日)

筆者紹介:八木沼 与志勝(やぎぬま よしかつ)

エフセキュア株式会社 テクノロジー&サービス 部長
1972年生。UNIXプログラミングからIT業界に携わりはじめ、そのあとITインフラを中心としたITコンサルティングからセキュリティ業界へ。エフセキュア入社は2006年で、法人/コンシューマの製品およびプリセールスなどのサービス全般を担当する。


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