ミャンマー領なのになぜか中国っぽい
「ワ州」の実態
変わった例をひとつ紹介しよう。中国の西南端の雲南省とミャンマーは隣接するが、ミャンマー側の国境地帯に「ワ州」という地域がある。「中国とミャンマーの狭間にあり、そこはミャンマー領なのになぜか中国のバッタモノのような一党独裁の政治システムが採用され、中国語が使われていて人民元が通貨として使われている」のだという。
「だという」と書いたのは筆者自身でなく、ノンフィクションライターの安田峰俊氏が訪問し、その情報を本人に許可を得て拝借しているためだ。
安田氏に写真を借り、現地情報を教えていただいたところ、ワ州の首府である「パンサン」という街はミャンマーなのに国境を超えた先の雲南省の街とそっくりとのこと。筆者自身、雲南省と縁があるので写真を見るだけでよくわかる。
街の作りもさることながら、雲南省に偽アップルストアがあるように、国境を越えたパンサンではデジモノを扱う偽ソニーショップ(なぜかAppleのロゴ付き)がある。こんな場所なのに中国側から運んだであろうMacBook ProやiPhone 4、iPhoneカバーを売っていた。ワ州内の偉い人御用達ガジェットらしい。
偉い人ではなくそこに住む普通の中国人向けのITといえば、本国同様ネットカフェがあり、ネットカフェ利用者はチャットソフトの「QQ」を楽しんでいるほか、電話にしても店々の電話番号は中国の携帯電話番号と中国側の街の市外局番付固定電話番号が書かれている。パンサンはミャンマー人も多く住んでいるが、その街の雰囲気は隣国ながら中国そのままだった。
ワ州のパンサンの例はあまりに極端だが、筆者が真っ当に訪ねた経験からしてもラオスの国境付近の街などを初めとして、中国に隣接する街は華僑が多く住んでおり、程度の差こそあれパンサンのように中国のIT環境がそのまままるごと外国の街に運ばれている。
現在筆者が見る限りでは、元々そこに住む人々が中国のIT習慣を吸収し、中国人と同じようにITを使いこなすケースはまだ見たことがない。
とはいえ、中国商人がビジネス目当てでどんどんやってくる限り、現地で見かける中国製のIT製品もネットカフェのPC端末でインストールされるQQなどのソフトも増えていくことは間違いないわけで、今こそまだないが地元民がITを学ぼうという風潮となったときに一気に中国のハードなりソフトなりが普及するかもしれない。
最後になるが安田氏が突撃したパンサンについて興味があれば、同氏の発売したばかりの新書「独裁者の教養」(星海社刊)を手に取るといいだろう。個人的には面白く読めてオススメだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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