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Citrix Synergy 2011 Barcelonaレポート

Any to Anyの接続を実現するシトリックス製品を一挙に発表

2011年10月28日 06時00分更新

文● 渡邊利和

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米シトリックスシステムズは10月26~28日の3日間の会期で、スペインのバルセロナでプライベートイベント「Citrix Synergy 2011 Barcelona」を開催中だ。初日となる26日午前に行なわれたCEOのマーク・テンプルトン氏による基調講演は、同日付で発表された主要6本の新製品発表を含め盛りだくさんの内容で予定時間を大幅に超過する熱演となった。ここでは、クラウド側で使われることになる新製品を中心に紹介したい。

ピースを集めて完成させた事業戦略

 シトリックスは今年7月、クラウドOSの開発元として著名な存在だったCloud.comの買収を発表し、CloudStackを製品ラインナップに加えた。この結果同社は、下層で利用されている仮想化インフラの種別を問わず、多数のサーバーを統合したクラウド環境を構築し、統合的な運用管理インターフェイスを提供できるようになった。もちろん同社は自社で提供する仮想化インフラとしてXenServerを擁しているが、Xen環境に限定されない広範な接続性をもつクラウド構築ツールを持つことで「オープンなクラウドを推進する」という強力なメッセージを発信できるようになった。

基調講演を行なったCEOのマーク・テンプルトン氏

 一方、Cloud.comほどの注目は浴びなかったものの、同社はこのところ積極的な企業買収を繰り返し、クラウド関連の技術を多数集積しつつある。今回のSynergy Barcelonaは、基本的には5月末に米サンフランシスコで開催されたSynergyのEU版という性格だが、ここまでに実施されたM&Aの成果を同社が描く事業戦略の一枚絵の中にきれいに当てはめて見せる、という役割も担っていたように思われる。

 クラウド側の主要な新製品としては、「CloudGateway」「CloudBridge」「ClooudConnecors」の3製品が目立つ存在だ。いずれもベースには同社のWAN高速化製品「NetScaler」の通信技術が活用されている。デスクトップ仮想化に関する長い経験を踏まえ、サーバーサイドコンピューティングを快適に実行するためには通信の高速化が不可欠、という認識からラインナップに加わったNetScalerだが、クラウド環境もやはり概念的にはクライアント/サーバー型の発展系であり、通信の高効率化は無視できない要素となる。その上で、エンタープライズユーザーがクラウド上のサービスを利用する際に必要となる機能を盛り込んだのがこれらの製品だといってよいだろう。

Three PCを具現化する製品の概要

 同社は現在、同社の戦略を「Three PC」という言葉で表現している。“PC”はパーソナルコンピュータではなく、“Personal Cloud”“Private Cloud”“Public Cloud”の頭文字で、要はクラウドということになる。Personal Cloudは、個々のユーザーが日常的に利用する各種のクラウドサービスの意味であり、Private Cloudは企業が自社利用のために自社で構築するクラウド、Public Cloudは外部のクラウド事業者が運営し、サービスとして提供するクラウドだ。シトリックスの視点では、この3種のクラウドはそれぞれ密接な連携を保ちつつ、全体としてより優れたユーザー体験を実現できるように高度に組織化されていく必要がある。そのために活用されるのが同社の通信技術であり、またMetaFrameの時代からアプリケーションをサービス化してきた経験に基づく“アプリケーションをサービスとして提供する際にユーザーに提示すべき適切なインターフェイス”ということになる。

CloudGatewayが位置づけられるエンドユーザーとPrivate Cloudの接続点においてどのような機能が求められるかを示した図

 CloudGatewayは、大まかなポジションとしてはPersonal CloudとPrivate Cloudを接続するためのツールと位置づけられる。通信が成立するか否か、という単純な視点では、特別なツールがなくてもクラウドとエンドユーザーの通信は成立するが、企業内ユーザーが業務でクラウドにアクセスする、という前提であれば、ユーザーごとにどのようなサービスを利用可能なのかといったアクセスコントロールの機能も必要だ。きめ細かなアクセスコントロールの実現という意味では、現在のXenAppがMetaFrameという名称だった頃から同社の実装は高く評価されており、ユーザーごとに利用可能なアプリケーション/サービスを緻密に制御できていた。この機能を、社内に設置された独自サーバーからさまざまなクラウド環境に対応するように分離/独立させて製品化したのがCloudGatewayだといえるだろう。同時に、NetScaler由来の通信高速化の技術も盛り込まれているようで、エンドユーザーがPrivate Cloud上に実装されたアプリケーション/サービスを快適に利用できるようにするための“入り口”としての機能を提供する製品となる。

 CloudBridgeは、Private CloudとPublic Cloudの間を接続するために使われる製品だ。こちらもCloudGatewayと同様に提供可能なアプリケーション/サービスをメニュー化して提示する“サービスカタログ”の機能と相互の通信を高速化する機能を持つが、主たる狙いはPrivate Cloudの拡張としてPublic Cloudを位置づけ、必要に応じてPrivate CloudとPublic Cloudの間でワークロードを移動するなど、「Private Cloudのリソースが不足した場合にPublic Cloudからリソースを持ってくる」という機能を実現する。

CloudGatewayの機能構造図。各種デバイスに対する接続性を確保しつつ、バックエンドで実行されているアプリケーションをサービスメニュー化する“サービスカタログ”機能を実装するStoreFrontサービスと、通信に関わる機能を実装するGatewayサービス部で構成されている

 同時に、CloudBridgeは、その機能の実現を下層の仮想化インフラに依存しており、ワークロードの移動などは仮想化ソフトウェアのライブマイグレーション機能を利用する形となっているため、現状では異なる仮想化ソフトウェアが稼働するクラウド間を接続する場合にはそのままの形でライブマイグレーションが実行できるわけではないなど、万能ではない。Private CloudとPublic Cloudの間で通信を行なう際のセキュリティやパフォーマンスの懸念に対応するための安全で高速な通信路の確立が主要な機能となると考えて良さそうだ。

CloudBridgeの位置づけ

 CloudConnectorsは、おもにCDN(Contents Delivery Network)事業者向けの製品で、NetScalerを利用して企業アプリケーションの高速配信を実現する。端的には、CloudConnectorはNetScalerのオプション機能として実装され、CDNの各ノードに分散配置されたNetScaler上で稼働し、ソースとなる企業のサーバとCDNのどこかのノードに接続したクライアントとの間での通信を効率化/高速化する。NetScalerの本来の機能ではあるが、CDN内に分散配置されたNetScalerをコントロールするための拡張部分がCloudConnectorとして提供されると考えて良さそうだ。

CloudConnectorsの位置づけ

クラウドとどう通信するのか

 クラウド環境は、本質はTCP/IPネットワーク上に設置されたサーバー環境に他ならず、特別な機能がなくても通信はできるはずである。そのため、今回発表されたCloudGateway/CloudBridge/CloudConnectorsの機能を相互接続のためだと考えてしまうとわかりにくくなる。実際には、通信そのものを実現するというよりは、通信経路に対して付加価値を与えるのがこれらの製品の役割だといえるだろう。付加価値部分がなくても通信自体は成立するが、企業の業務を支えるITインフラとしてクラウドを位置づける場合には、提供される各種のアプリケーションをサービスメニュー化してユーザーに提示し、ユーザーの業務や権限に応じて適切なアクセスコントロールを実現し、さらにモバイルユーザーに炊いても快適な操作を可能にするための通信の効率化を行なう、といった機能はぜひとも欲しい部分だろう。

 基調講演を行なった同社のCEOのマーク・テンプルトン氏は講演の締めくくりとして同社のビジョンを紹介、「人々がどこにいたとしても仕事も遊びもできるような世界を創る」(“We create a world where people can work and play from anywhre”)と語った。この目標自体はクラウド時代を迎えて新たに生まれたものというわけではなく、同社が一貫してずっと取り組んできたテーマである。

Citrixが実現するクラウド環境での「Any to Any」の相互接続

 かつては企業LAN内部にオンプレミスで設置されるサーバーの機能として、現在はオープンなクラウド環境に対応する機能として提供されるようになっており、利用可能な技術のトレンドが移り変わるのに対応してその姿を変えてはいるが、根本部分がぶれることのない一貫した姿勢が維持されている。現在の同社は積極的なM&A戦略を採っており、今年に限っても大きな買収が何件も発表されているが、それらが中途半端な位置づけに終わることなく、全体的な企業戦略の中にきちんと位置づけられている点は高く評価できるだろう。以前からの取り組みである「どのようなデバイスからでも業務アプリケーションにアクセスできる」という機能に加え、現在では「接続先がどのようなクラウドであっても」という要素が加わり、「Any to Any」の接続性を提供できるようになった、というのが現在のCitrixの姿だといってよいだろう。

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