組み込み分野やワークステーションに
幅広く採用されたAm29000
Am29000は、ある意味で非常に素直なRISCプロセッサーである。ベースとなったのは「Berkeley RISC」で、同じようにBerkeley RISCをベースとした「SPARC」とか「Intel i960」と構造的には似ており、レジスターウインドウが利用された。ただi960やSPARCと異なり、当初からこのレジスターウインドウのウインドウサイズを可変にできるとか、ステータスレジスターを持たずに汎用レジスターで代用できるなど、コンパイラーを作る側からすると最適化が容易な構造になっており、そのため性能が比較的上げやすかった。
当初は「Am290xx」シリーズがリリースされる。こちらはCPUとして提供されたもので、まず1988年にAm29000と、Am29000から命令キャッシュを省いた低価格版「Am29005」がリリースされた。構造的には4段のパイプラインで、Am29000が最大33MHzの動作周波数だった(非公式には40MHz動作の製品もあった)。
これに続き、命令キャッシュ4KBの「Am29030」、命令キャッシュ8KBの「Am29035」、命令キャッシュ8KB/データキャッシュ4KBの「Am29040」へと進化。1994年にリリースされた「Am29050」ではFPUや1024ByteのBTB(Branch Target Buffer)やTLB(Translation Look-aside Buffer)などを搭載するに到る。
補足すると、FPUは当初のAm29000シリーズでは内蔵しておらず、「Am29027」という外付けFPUを利用する必要があった。ただし、Am29027の性能はそれほど高くはなかった。Am29050に内蔵されたFPUは、Am29027の内部構造を大幅にブラッシュアップし、パイプライン化も取り入れたもので、40MHz動作のAm29050で理論上80MFlopsの性能とされた。
内部構造で見ると、内部バスをアドレス/データ/制御で分離した「3-bus構造」を採用したのが、Am29000/Am29005/Am29050の3製品。アドレスバスとデータバスを一体化した「2-bus構造」がAm29030/Am29035/Am29040となっている。細かく見るとほかにもいろいろと違いはあるのだが、ソフトウェア的には完全に互換構造であった。この290xxシリーズは組み込み用途のほかに、ワークステーションなどでも広く利用されていた。
この290xxシリーズを、もっと組み込み用途に適したものとしてMCU(Micro Controller Unit)構造にしたのが「Am292xx」シリーズである。Am290xxシリーズは「MPU」(Micro Processor Unit)であり、基本的に演算処理+外部へのインターフェースしか持ち合わせていない。一方のAm292xxシリーズはMCU構造で、CPUに加えてメモリーコントローラーや周辺回路まで、ワンチップの形でまとめたものである。そのためAm292xxチップ1個だけで、動作するシステムが作れるというものだった。
最近のMCUはメモリーコントローラーのみならず、メモリーそのもの(SRAM)も内蔵しているのが普通だが、この当時はSRAMまで内蔵するのは製造プロセス的に無理だったようで、外部にDRAMを接続するような構造になっている。ただしROMは内蔵したほか、DMAコントローラーやシリアル/パラレル汎用入出力ポート、デバッグ用JTAGインターフェースなどを内蔵しており、例えばプリンターの制御エンジンなどを数個のチップで構成できるようになっていた。
有名なのがアドビシステムズの「PostScript」だ。アドビが最初、Am29000向けにPostScriptのインタープリターを実装した関係で、初期のPostScriptプリンターは必ずAm290xxシリーズが搭載されていた。後には低価格製品で、Am292xxシリーズが利用されるようになっていた。
- 写真の概要(ウィキメディア・コモンズのファイルページ)
- Español: Microprocesador AMD 29000
- ●Description: AMD 29000 Microprocessor
- ●Source: http://www.cpu-collection.de/?l0=i&i=2259&sd=1 (own website)
- ●Photographer: Dirk Oppelt
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