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【追悼】「スティーブ・ジョブズ」の軌跡 第12回

「Keynote 1984」―1984年1月24日 Macintoshデビュー

2011年10月06日 22時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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Macは自らの声で自分を紹介した

 電源コネクターなどを接続したあと、ジョブズはシャツのポケットから1枚のフロッピーディスクを取り出し、おもむろにMacにセットする。中身は、開発チームが徹夜で仕上げたデモ用のプログラムだった。ジョブズはその場を離れ、Macの画面が会場のスクリーンに映し出される。

 最初は、Macintoshという大きな文字が画面いっぱいに横スクロールしながら流れるもの。続いて、星空風の背景の上にMacintoshという文字が現れ、その下に「Insanely Great!」という筆記体の文字がアニメーションで描かれていく。さらに、MacPaintやMacWrite、スプレッドシート風ソフトなどのスクリーンショットがスライドショー表示される。そこでジョブズは、それではここでMacintosh自身にしゃべってもらいましょうと語り、Macに歩み寄り、何やら操作を始める。すると、Macはいかにも音声合成されたといった音質のスピーチシンセサイザーを使って英文をしゃべり出す。内容はこうだ。

 「ハロー、僕はMacintoshです。あのバッグから出られて実にいい気分です。人前で話すのは慣れていないので、僕がIBMのメインフレームに最初に出会ったときに思いついた格言をみなさんに紹介しましょう。『自分で持ち上げられないコンピューターを信用するな!』です。お聞きのように僕は話せますが、今は少し控えて聞き役に徹しようと思います。それでは大いなる誇りを持って紹介しましょう。僕にとっては父親のような人、スティーブ・ジョブズです」

 ここで再びジョブズに照明が戻るが、観客の歓声はなかなか収まらない。ジョブズが聴衆を静めるまで、実際には5分以上も喝采が鳴り止まなかったという。

 その後ジョブズは、Macがターゲットとする市場について説明し、MacのCMを立て続けに5本も見せる。そこで繰り返されるフレーズが「Macintosh, the computer for the rest of us」。「これまでコンピューターなど使ったこともなかった人達のためのコンピューター」という意味だ。さらにMacに関するさまざまな話が続き、Macの開発チームを紹介するビデオを流し、彼らの貢献を讃える。

 こうしたスピーチの手法は、現在のジョブズの基調講演にも通じるものがあるだろう。これは、株主総会の中の一幕に過ぎないが、実質的にはジョブズがMacのために披露した最初の基調講演と言ってもいいのではないだろうか。少なくともジョブズの基調講演の原点はここにあった。

 この発表でジョブズは一躍コンピューター業界の寵児となる。しかし、この1年少しあとには、自らスカウトしてアップルに引き入れたジョン・スカーリーの手によって、アップルを追放されてしまう。ジョブズがふたたびアップルの基調講演に帰ってくるのは、それから10年以上も経過してからだ。

MacPeople×MACPOWER緊急特別編集
CEO スティーブ・ジョブズ

 2011年10月5日、アップルのスティーブ・ジョブズ元CEOが死去しました。月刊誌「マックピープル」では、スティーブ・ジョブズ氏がアップルと歩んできた道を本誌増刊号「CEO スティーブ・ジョブズ」(価格680円)として10月17日に緊急発売します。

 初代Macintoshが発表された1984年からiCloudを発表した2011年までの主要なキーノートスピーチの内容はもちろん、ジョブズ氏の経営哲学までをカラー128ページにぎっしり詰め込みました。スティーブ・ジョブズ氏がアップルやIT業界に残した功績をいま一度再確認できる1冊です。

CEO スティーブ・ジョブズ

「CEO スティーブ・ジョブズ」は、価格680円で10月17日発売。アップル起業から CEO退任までの軌跡をはじめ、初代Macintoshの開発者から見たスティーブ・ジョブズ氏や、NeXT、Pixarにおける活躍も紹介する。巻末には、PC/IT業界で著名な識者の追悼メッセージを掲載している

「基調講演ヒストリー」では、初代Macintoshが発表された1984年1月から、iCloudの重要性について語った2011年6月までの主要な基調講演の内容を紹介

「スティーブ・ジョブズのビジネス哲学」では、ジョブズ流の経営術やプレゼンの手法、人心掌握術などを、さままざまなエピソードから紐解く

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