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NAVERまとめへの広告配信停止から見えて来るもの

2011年10月04日 16時00分更新

文● まつもとあつし

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覇権プラットフォームと付き合うリスク

 舛田氏からの回答や、公開された経緯にあるように、当初NAVERまとめに対しては「アダルト/性的補助およびフェチを含むコンテンツの改善要請」がGoogleから寄せられ、その後、「著作権侵害コンテンツ」についても改善が求められたという。

 ネイバー側も、その都度コンテンツの監視体制や、当該コンテンツの自発的な削除に努めたが、警告の累積数がAdSenseアカウントそのものの停止に至る数に近づいたため、配信停止という処置になったようだ。(あくまで広告配信の停止であり、一部報道にあったようなアカウントの停止という最終的な処置には至っていないことにも注意が必要だ)

 先に述べたように、キュレーション型のサービスには著作権を巡る課題がつきまとう。それに加えて、収益分配という新しいチャレンジを行ったNAVERまとめにおいては、インターネットにおける収益性の高いコンテンツ=アダルトコンテンツ(ただし、YouTubeにおける年齢認証の状況を鑑みると、Googleがここで問題視しているのは、水着のような比較的肌の露出が低いようなものも含んでいる可能性がある)が好んで選択され、掲載されるという悩みもあったということは想像に難くない。先のページでは「段階的に警告を受け、その都度 約30万本のまとめをチェックし直すという作業を繰り返し」とも言及されている。

 著作権や、Webサービスの規約の問題に詳しい、福井健策弁護士は筆者からの取材に対して次のように答えている。

 「AdSenseの利用規約そのものには『アダルト/性的補助およびフェチを含むコンテンツ』といった表現は登場しません。つまり、ここではどこまでがそれに該当するかの基準が明確ではないのですが、コンテンツガイドラインには、「不適切な表現」というかなり包括的な項目があります。

 また利用規約の6条に次のような記述もあります。

 Google は、その独占的裁量で、いかなる場合でも理由の如何を問わず、本プログラムの全部または一部、あるいは本契約を終了し、どの本件プロパティについても本プログラムの全部または一部への参加を中止あるいは終了することができます。

 つまりガイドラインに曖昧なところがあっても、極論すればそれに関わらずGoogleは自由にアカウントを停止することができる訳です。もちろん、法的にあらゆる規定が有効とは限りませんが」

 福井氏が指摘するのは、Googleのような言わば強大かつグローバルなプラットフォームを利用してビジネスを展開する際のリスクだ。

 Appleのアプリ検閲問題の際にもたびたび議論に上がるように、文脈とは関係無く杓子定規にNGと判定されると、プラットフォームそのものの利用が出来なくなってしまう。プラットフォームを利用したいというプレイヤーが大量であること、またグローバルに展開するプラットフォームでは、文化圏ごとにその基準を調節することが困難である点も福井氏は指摘する。特にGoogleでは自動化を推し進めている点からも、なおさらその色合いは強くなるはずだ。

 福井氏はあくまで推測と前置きした上で、「AdSenseなど商品・サービスを出来るだけ利用してもらいたいGoogleの日本法人と、グローバルな運用ポリシーを、他の利用者との公平さを保つ観点からも出来るだけ厳格に遵守させたい米国本社との間には、温度差もあったはずです」と言う。このことはGoogleに限らず、グローバルなプラットフォームを展開する企業とその支社との間でこれまでも繰り返されてきたことでもある。

 「ヘゲモニー(覇権)を握っているプラットフォームを利用する際の問題点は2つあります。1つは他に選択肢が無いこと、もう一つは今回のような問題が起こった際、アカウントを一方的に停止・削除されてしまうと、ビジネスそのものが成立しなくなる、という点です。」と福井氏は指摘する。つまり、対等に交渉する余地はそこには殆ど残されていない。

プラットフォームの強大さを示した例として記憶に新しいのは7月に配信が一時停止したレディガガの公式チャンネル (http://www.youtube.com/user/ladygagaofficial)だ。来日の際のテレビ出演動画がアップロードされていたのがその原因となった

 B2Bモデルであるにも関わらず、利用者側に選択と交渉の余地が殆ど無い構図になっているわけだが、立ち上げ時に既存の概念に一種挑戦することになる新興企業やサービスとの衝突が避けられない。福井氏はオルタナティブ、つまり多様な選択肢が存在するのが市場にとって健全ではないかと言う。ネイバーの場合、グループ内の広告配信サービスJlistingを利用すると発表している。

 これによって収益還元額は小さくなると予想されているが、インセンティブを与えるというNAVERまとめの特色そのものが失われることは、Jlistingの採用によって回避された。(この出来事は、2007年にニコニコ動画がYouTubeから遮断された後、自前の動画アップロードサイトSmilevideoを用意したことも思い起こされる)

 Web 2.0ブームと共に、プラットフォームの機能を間借りする、いわゆるマッシュアップのような形でビジネスモデルを構築しようとした企業が次々と現れたが、今回の一件はそのリスクと、またそれに対する代替策を持っておくことの重要性を示したとも言えよう。

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