日本のアニメに「王道」が再び求められた
―― 「異質なものを入れる」というお話をうかがいましたが、「GOSICK」はアニメーションのジャンルとしてはどんなところに位置するとお考えでしょうか。「GOSICK」は、深夜アニメであるけれども、いわゆる「萌え系」とも少し違う気がしますが……。
難波 最初にお話ししたように、「これは何とかもの」とか、ジャンルやお客さんの層を絞り込まないで作りたいと思いながら作っていったので、特に意識をしていないんですね。もちろん、ヴィクトリカはかわいくしようとはしましたけれども、それも別に萌えっぽいキャラクターにしたいというわけではなかったですね。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
―― 同じ美少女を描くのでも、「萌え」的なかわいさと、そうでないかわいさには違いがあると思いますか。
難波 「萌え」というのは、男性にとっては、どこかセクシュアルな部分が強いのだと個人的には思います。ヴィクトリカはそこを強調するつもりでは描いていないです。人間ドラマを描く以上、「人間」として描かれないといけないなと。だから、喜怒哀楽をちゃんと出して、こびを売るわけでもなく、普通の人間として描けたらいいなと思いながら描いていました。それが男女半々ぐらいのファン層になったというところにも繋がるのかもしれないですけれども。
―― “売り”を意識して、萌えっぽさを出そうとか、心揺らぐことはなかったんですか。
難波 いえ。「GOSICK」に関しては、萌えっぽいアピールは必要がない作品だと思っていて、初めから眼中になかった部分なんです。……まあ、周りからはもっとヴィクトリカを萌えっ娘にしようよという声も出ていたんですが(笑)。
―― そういう声はあったんですね。
難波 でも、「GOSICK」は自分が読むとどうしても人間ドラマの方で読んでしまうんです。謎のロジックを知りたいのではなくて、その謎を起こした人間の行動とか心理のほうが気になって、焦点を当てたいと思う。作るときに意識はしていないんですが、自分が好きな方向でアニメーションを作ると、「王道」ものにはなってしまうんですね。
世代が世代なもので、宮崎(駿)さんの「未来少年コナン」とかを見て育っていたり。この業界に入って最初に働き始めたテレコム・アニメーションフィルムという会社で、「カリオストロの城」の動画をやったりと、自分自身が王道なアニメーションを作る現場にいることが多かったんです。
―― 深夜アニメの枠で「萌え」を意識しない。それでも王道の「GOSICK」がお客さんに支持された理由は何だと思いますか。
難波 たぶん、これはもう全然「GOSICK」とは関係なくて、今また王道的なものを作るタイミングになってきているということなのかもしれないです。今の時代の流れを考えると、不安な時代だから、人同士の絆のような、ちょっと前だったらベタと言われかねないようなことが大事だと皆が思うようになってきているのかなと。
あとは、自分がひとりのアニメファンの立場として考えると、そろそろ今までのものに飽きが来ている時期なのかなとも思います。ずっと洋食がうまいと言って食っていたけど、和食とかも案外うまいんじゃないか、みたいな。90年代から始まった深夜アニメも、深夜ならこういうお約束を入れるというような、ある種、法則化されたものができ上がっていて、その中で、お客さんもそろそろ違うタイプのものも観たくなっているのかなとは思います。やっぱり人間は飽きますよ。作り手もおそらくそうだと思うんです。同じ価値観のものが増えると、違うところに行きたくなる。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
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