ヨーロッパに、日本という異質を入れる
難波 「GOSICK」って、ヨーロッパが舞台だけど、メンタリティーは少し日本人的でもあるんです。もちろん作り手が日本人だからというのもありますけど、作品自体が、“ヨーロッパの中に、日本という異質なものを入れる”という話でもあるんです。
主人公の久城一弥は、東洋の島国からヨーロッパの伝統校に留学してくる。東洋人はひとりだけで、黒い髪を持つことから、異質な存在として遠ざけられている。でも、一弥自体は、異質なものに対しての偏見がなくてフラットな見方ができる子で、「灰色狼」と呼ばれて人から敬遠されるヴィクトリカとも友達になろうとする。そのスタンスは学園の外でも同じで、貴族に対しても、ホームレスの男の子に対しても、誰とでも人間として対等に接するというところが、一弥の長所というふうに描いています。
一方で、一弥は、ちょっと猪突猛進な少年でもあって、自分の考えはこうだと決めたら、どこにでも誰にでも突っ込んでいくキャラクターでもあります。ヨーロッパの、伝統やしきたりが人間関係を支配しているような場においても、ずけずけと中に入っていって、相手に向かってひるむことなく、良いものは良い、悪いものは悪い、と声を上げて、根底にある矛盾を突きつけていくんですね。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
―― 一弥が「違う」ことに気づけるのは、異質な存在だからこそ、だということですね。
難波 そうですね。やっぱり異質だからこそヨーロッパの伝統の中では波風も立つし、ヴィクトリカや周囲の人たちにも影響を与えていくことになる。ソヴュールという架空の国が舞台ですが、ソヴュール自体は、原作者の桜庭一樹さん曰く「いいとこ取り」の国にしたいということでした。
フランスと接していて、ブドウ畑でワインが取れて、海に面していて魚介類も捕れて、スイスのアルプスにまで山が続き、街並みのあるところはイギリスっぽく、またある風景はドイツっぽく。いろいろな要素を取り入れてミックスしたものが入っているという。
アニメーションでそれを表現するためには、1つの国をそのまま参考にして再現するだけじゃなくて、ヨーロッパの様々な国の時代や様式、土地の気候などを取り入れて、ミックスすることでソヴュールを作ろうとしたんです。
―― ヴィクトリカが推理をするときのセリフで言えば、まさに「カオスを再構築」するわけですね。
難波 はい。本当にそんな感じです。アニメーションの作業というのは、常にカオスの再構築だと思うんですよ。いろいろなテーマであったり、要素であったり、いろいろなものをまとめ上げていって、1つの作品として仕上げるという。その辺り、「GOSICK」はまさにアニメーションらしいカオスの再構築を求められる作品で、自分自身が共感しながら携われた気がします。異質なもの、新しいものをどんどん取り入れて、ミックスしていく。日本のアニメーション自体がそういうところがあると思います。
©2011 桜庭一樹・武田日向・角川書店/GOSICK制作委員会
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