人々が信頼しあえる環境で
中古市場は活性化する
中国での中古市場での買い物がリスキーな理由に「信頼感の欠如」が挙げられる。知らない人に高い値段で売りつけるほか、よりロースペックのパーツと交換して売りつけるといったことがよく行なわれる。
これは地元人同士でもそうだ。そのため中国の掲示板では「中古を買うのはお勧めしないが、どうしても買うというのなら、しっかりと買いたい機種のスペックを勉強した上で、購入前に長時間店頭で動かしてみること」「CPU-ZなどのソフトをUSBメモリーに入れて、ちゃんと購入時にスペックが正しいかチェックすること」といったアドバイスをよく見かける。
中古市場は信頼がないため、一貫してその人気は低空飛行だ。購入者はお金はないがどうしても家(寮生活)でPCが必要な大学の新入生や、PCの追加導入が必要な小企業の担当者が多いのだとか。
実機を動作確認してから支払いが鉄板の購入方法であるため、実機が見られない「淘宝網」などのオンラインショッピングサイトでは、よほど信頼されているショップを除いて特に敬遠される。
これは最近話題の三行広告サイトにおいても、中古PCの売買のハードルはあまり下がらない。中古PCは「精密機器であるため一見すると気にならない部分で壊れている可能性があること」「パーツが容易に交換可能であること」から、他の製品ジャンルよりも取引は活発でないようだ。
ちなみに同じ中古の精密機器でも携帯電話、特に日本のフィーチャーフォンは中古でないと入手できないので比較的取引されている製品だ。もっとも、それもスマートフォンの台頭で人気は薄れつつあるが。
さて、中国における中古市場の常識がアジア全体で通じるかというとそうではない。例えばタイでは地元の人向けに日本のような古本屋が存在し、電脳街では秋葉原のショップと似たような中古PC屋やジャンク屋はよくある。しかし、同じ東南アジアでもベトナムでは中古屋をあまり見かけない。
この違い、すなわち中古屋というショップジャンルが定着するか否かの鍵だが、結局は法整備云々よりも地元の人々同士が信頼しあっているか、騙し合いがないかに尽きる。
例えば同じ中国でも、ないしはインドでも、大学という小さなコミュニティー内では学術書を売買する場がある。さまざまな階層の見ず知らずの人々の間では騙し合いは多いが、同じ地位の人々ならば騙し合いは少ないことが影響していよう。
中古市場があるか否かは地場の人々同士がある程度信頼しているかという、信頼社会のバロメーターなのである。中古市場が活況を呈している日本は他国から俯瞰すれば、人々が信頼しあっている社会なんだなあと感じるのだ。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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