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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第144回

電波を政治的な取引に使う総務省と民放とNTTドコモ

2011年09月22日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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役所に協力して外資を排除するのは実質的な「賄賂」の一種

 免許申請のとき、mmbiの優位性は「民放が出資しているため、民放の番組を放送できる」ことだとされたが、ふたを開けると民放はソフト事業者に手を上げず、ドコモはハシゴをはずされた格好になってしまった。

 これは民放としては当然だ。VHF帯は彼らがアナログ放送を行なっていた帯域であり、その「跡地」も彼らのものだと思っていたので、外資に渡すとはもってのほかだ。大事なのは新しい放送業者が参入して競争するのを妨害することであり、何に使うかはどうでもよい――というわけで、総務省に圧力をかけてドコモを引き込み、外資を排除したのだ。

 民放にしてみれば、電波をふさいで外資を排除した段階で目的は達したので、その電波を使って放送する必要はない。これは彼らが一貫して行なってきた「場ふさぎ」戦略で、その結果、日本の地上波民放は先進国でも珍しくチャンネルが少なく、高い利潤を上げている。

 では彼らの埋め草に使われたドコモは、単なるお人好しだったのかといえば、そうではない。VHF帯で失敗しても、無駄になる設備投資は400億円余りで、連結売上高の1%程度。それより大事なのは、これから空く700MHz帯で周波数を確保することだ。ここで次世代の周波数を20MHz確保できれば、時価3000億円。この貴重な「プラチナバンド」を美人投票で割り当ててもらうには、VHF帯で400億円ぐらい捨てて、総務省に恩を売っておくほうがいいのだ。どうせ電波はタダなのだから。

 つまり官僚が密室の美人投票で免許人を決める配給制度のもとでは、総務省の失敗した電波割り当ての尻ぬぐいをすることで、有利な周波数を割り当ててもらうことが重要な経営戦略なのだ。しかし、このような取引に使われる電波は、総務省の官僚のものでもなければドコモのものでもない。国民の共有財産である電波を浪費する「電波社会主義」は、いつまで続けられるのだろうか。


筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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