いずれは“TSUTAYA vs Hulu”に?
“オンラインレンタル”と銘打ったサービスは、国内でもTSUTAYAやDMM、ゲオなど多くの事業者が展開している。
だがそれらのほとんどは、レンタル作品の申し込みはオンラインだが、視聴はあくまで宅配されてきたDVDもしくはBDという形を取っている。日本国内では上記のFSDといった著作権の解釈は成立していないため、あくまでも「店舗に来る手間を省く」という形でしかサービスは提供されていないのだ(ビデオグラムのレンタルの権利と、ネットで配信をするための公衆送信権は明確に分離されていて、また窓口となる会社も異なるケースも多い)。
日本版のHuluが「定額見放題」で話題を呼んだのも、裏を返せば日本国内にまだNetflix型のサービスが存在していないからとも言える。カテゴリーを絞らず、その日の気分に応じて視聴ジャンルを選べるスタイルの方が、支持を拡げるのは自明だからだ。米国版のHuluはテレビ放送直後に、まだビデオ化されていない作品をいち早く見逃し視聴できることが支持を拡げたのとは根本的に異なるサービスだということは繰り返しておきたい。ウィンド展開の時系列の中でビジネスを行なうタイミングがそもそも違うのだ。
さて、このように見ていくと、気になるのは国内レンタル最大手のTSUTAYAの動きだろう。既にTSUTAYA DISCASというオンライン宅配レンタル事業を立ち上げている。500万本以上と呼ばれる豊富なラインナップを誇るこのサービスが、Netflixのようなサービスに移行することはあるのだろうか?
筆者が取材した範囲では、TSUTAYAを運営するCCCの上場廃止(2011年2月に発表されたMBO=経営陣による自社株の買い取り。3月23日に成立)に注目する識者は多い。Netflixになれるか、はたまたBlockbusterになってしまうのか、両方の可能性があるこのレンタル業界最大手は、江戸時代の浮世絵版元にあやかって1983年に「蔦屋」という名で店舗型ビデオレンタルをはじめたときも、貸しレコードを巡って認められたばかりの貸与権(1985年に成立)を積極的に活用して、現在の姿がある。
デジタル化の浸透を受けて、いま文化庁でも著作権制度を巡る審議会(文化審議会著作権分科会)が開かれ、日本版フェアユースなど、デジタル時代に即した著作権の在り方の議論が進んでいる。もちろん反対意見もあるが、こういった議論が進めば先に挙げたFSDなどもその射程に入ってくる可能性もある。CCCの上場廃止はポイント資産(Tポイント)の扱いをより柔軟にするためという見立てもあるが、コンプライアンス遵守を非常に厳格に求められる上場という軛(くびき)から解放され、再び蔦屋創業時の積極的な攻めの経営に転じるため、という向きもあるのもまた事実だ。
2011年7月の地上波テレビのデジタル完全移行は、東日本大震災で被災した地域を除き、粛々と行なわれたが、映像ビジネス、つまりメディア、コンテンツを巡る動きはいよいよ活発化することが予想される。日本版Huluなど定額サービスの相次ぐ登場とそれに対する反響はその端緒とも言えるだろう。筆者がASCII.jpビジネスで連載している「メディア維新をいく」でも、その動きを引き続き追っていきたい。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ネットコミュニティーやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。『スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ』(インプレスジャパン)、『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)も好評発売中。9月28日に新刊『スマート読書入門 メモ、本棚、ソーシャルを自在に操る「デジタル読書」』(技術評論社)が発売予定。Twitterアカウントは@a_matsumoto
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