甘かった90nmのリーク対策
教訓はその後のCPU開発に生きる
だが、このTejasは連載61回で解説したとおり、2.8GHz動作のサンプル品ですら120Wを超える消費電力だった。1コアにPrescott2つ分の実行ユニットが収まっていたし、デコーダーも同時4スレッドを同時解釈だから、ヘタをするとPrescottのデコーダーを倍速動作で使っていた可能性すらある。となれば、消費電力がPrescottの倍になるのも当たり前だ。
こんな状況では、当初予定していた4.4GHz~5GHzで動作する製品をリリースして、最終的には6GHz……なんてのは夢のまた夢でしかない。もし本当に製品化していたら、最近のハイエンドGPU並みの300Wクラスの消費電力になっていただろう。もちろんこんなもんは既存のLGA 775では動作できない。2004年4月にTejasがキャンセルされたのは、当然といえば当然である。
もっとも筆者は、元々の「Prescottの発想」は、それほど間違っていなかったと思っている。Yamhillを捨てて「IA32e」をすぐに実装できたとか、さまざまな命令/機能拡張を簡単に導入できたいう点では、完全マイクロコードベースのデコーダのメリットはあった。それでもハードコードベースだったNorthwoodとそれほど性能が変わらなかったことを、むしろ褒めるべきだと思う。
Prescottを65nmプロセスで作り直した「Ceder Mill」では、消費電力の問題がだいぶ解決したあたりからも、LVSの発想が間違っていたとは考えにくい。インテルの90nmプロセスは、歪みシリコンなどで高速化には配慮が及んでいたが、リーク電流削減を甘く見すぎていた。そしてこれこそが最大の問題だったのだ。
これに続く65nm以降のプロセスでは、インテルによるリーク電流削減の開発努力は、壮絶なものがある。そうした教訓を残したという意味では、Prescott~Tejasは無駄ではなかったのだろう。個人的には、「Tejasを65nmプロセスで試作したらどうなっていたか」という点は、ちょっと心残りな話である。
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