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西田 宗千佳のBeyond the Mobile 第75回

ThinkPad X1開発者インタビュー

開発陣に聞く ThinkPad X1が「ThinkPad」である理由

2011年09月08日 12時00分更新

文● 西田 宗千佳

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「企業ニーズ」と「高速充電」を両立させるには

 目立ちにくい特徴だが、X1で導入された重要な技術が「Rapid Charge」と呼ばれる高速充電機能だ。X1の場合、30分でバッテリーの80%まで充電されるとしている。筆者が試用した際も、この機能の便利さは身に染みた。バッテリー駆動時間が長いことは重要だが、ファストフード店などで短時間に充電できるなら、使い勝手向上の点ではむしろプラスに働く。

土居「フラグシップ的なモデルですから、新しい要素を取り入れたいとは考えていました。しかしバッテリーライフを伸ばすとなると、ボディーをより大きく、重くしないといけません。そこでトータルでの使い方を見た上で不便を感じないようにするには、『充電そのものの時間を短くすること』が大切だろう、という発想に至ったのです」

田保「リチウムポリマーバッテリーのセルには、さまざまな特質を持つ物が存在するのはわかっていました。その中には、電流量を多くして急速に充電できる物もあります。それをなんとかパソコンで使えるようにしたい、と考えたのがRapid Chargeです。バッテリー自体は供給ベンダー様にご協力いただき、形状をカスタマイズしたものを採用しています」

「実は、早く充電するのは簡単です。電流をいっぱい流すだけですから。しかし、そうするとバッテリーがあっという間に傷んでしまいます。そこで、いかにバッテリーの寿命を伸ばすかがキーになっています。Rapid Chargeでは充電のアルゴリズムを工夫して、綿密に制御しています。単純に電流をかけるだけでは、寿命が短くなってしまうからです。内部では『何回充放電したか』の履歴を記録し、その回数に合わせて、充電の仕方を変えるようにしています」

「ただその結果として、ACアダプターは大きくなってしまいました。単に動かすだけなら65Wのアダプターでも十分なのですが、Rapid Chargeを有効にするためには90Wのものが必要です。『30分で80%充電』をしている時は、ほとんど90Wで動作していますね」

 なお今回のX1から、バッテリーの形状や取り付け方法も変更になっている。ボディー内部にバッテリーを組み込み、すっきりとした背面に仕上げている。これも「つなぎ目の線もなくしたい」(田保氏)という、エンジニアのこだわりがゆえだ。他方で、バッテリーを頻繁に交換できない構造になるため、「いかに寿命を延ばすか」ということは重要なポイントとなる。

すっきりとして凹凸やつなぎ目のないX1の底面。バッテリーの交換はユーザーでは簡単にできない

 X1の開発に向けた話を伺っていると、そこかしこに「ThinkPadらしさ」と「コンシューマー的な支持」のせめぎ合いが見えてくる。だが、やはりX1はThinkPadだ。標準電圧版CPUにこだわるのも、Rapid Chargeでバッテリーの寿命にこだわるのも、「導入した製品は長く安定的に使う」という企業ニーズを抑えてのものだからだ。

 筆者が最後に「今後Ultrabookが出てきた時、薄型製品としての差別化をどうするか」と尋ねた時の答えも、ここに関わる点が強調された。

土居「『企業系で受け入れられるものができるのか』、それが大切です。ThinkPadとしての差別化点はそこにあると考えています」

田保「Ultrabookのような話題は、今に始まったことではありません。しかし似たようなものはできるのでしょうが、製品としての『寿命』が真似できるわけではないですからね」

 すなわち、どのように姿が変わろうとも「長く信頼して使えること」こそが、ThinkPadのアイデンティティ、ということになるのだろう。


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筆者紹介─西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)、「iPad vs.キンドル」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(共著、徳間書店)。「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「災害時ケータイ&ネット活用BOOK」(共著、朝日新聞出版)。最新刊は「形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組」(エンターブレイン)。

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