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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ 第68回

スティーブ・ジョブズはどこにでもいる

2011年09月01日 19時20分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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Steven Jobs

アップルは世界最大のテクノロジーカンパニー!?

 スティーブ・ジョブズがCEOを退くというニュースが流れた。世界中ですでに100万回くらい語られていると思うのだが、これについてのわたしの見方は少し違っている。25年以上、毎週PCに関するニュースを追ってきたつもりだが、これが何を意味しているかということだ。

 アップルが「世界最大のテクノロジーカンパニー」と書いている記事があった。これには異論のある人もいるのではないか? また、「ジョブズがマウスを発明した」と発信した通信社もあった。これは、歴史とテクノロジーというものを冒涜するものだ。ジョブズ自身が「テクノロジーとリベラルアーツの交差点」にいる会社だと言っているとおり、テクノロジーやリベラルアーツそのものではないというのが、アップルなのではないか。

 実は、わたしもアップルといえば、なんとなくテクノロジーを生み出す会社だと思っていたことがある。かつて『月刊アスキー』編集長の時代に、「Quick Time」や「TrueType」など、現在のコンピュータにとって重要な技術のいくつかがアップルによって生み出された。ところが、当時アップル担当だったFくんに「そうでもないですよ」と言われたことがある。

 ご存知のように、ジョブズは1985年、自ら招き入れたジョン・スカリーにアップルを追われている。アップルが新しい技術に取り組んだのは、ジョブズが不在だったその後の11年間だというのだ。「アップル=ジョブズ」だとすると、たしかに、自らの手でいちから新しい技術を作り出したことはむしろ少ないのかもしれない。

 1997年にジョブズがアップルに復帰して、まずやったことは、リンゴのマークを単色のリンゴにし、コーポレートフォント(公式な表示に使う書体)を、「Garamond」から「Myriad」に変えたことだった。アップルのリンゴというのは、中世騎士団の盾紋のようなもので、ジョブズはこういうことをとても重要だと考えている。

 ジョブズが生み出したとされるMacintoshも、NeXTも、iMacも、iPodも、iPhoneも、iPadも、どれも歴史的なコンピュータシステムというべきだが、それらは、魔法のように無から生み出されたのではないい。技術とはすべて積み重ねの産物だといってしまえばそうなのだが、つまり、ジョブズは「パッケージング」の名人だと思うのだ。

 たぶん一番近いのはスターバックス・コーヒーであり、もう少しテクノロジーに寄っているとするとダイソンだろう。スターバックスは、コーヒーの革新的な焙煎方法を開発しているわけではないが、新しいコーヒー文化を創り出した。独創的な製品を提供しているダイソンも、自社開発のモーターを使っていたりするが、必ずしも新しい技術とはいえない。

 モノを売るということに関していえば、アップルはジャパネットたかたに似ているところがあるとも思う。生放送で全国に商品をPRし、セットアップサービスを徹底するジャパネットと、米国ではどこからでも1時間で行けることをめざす直営店を持つアップル。どちらもとてもユニークで、どこか似ていると思えるのだ。4万人いるアップル社員の半数以上が、Apple Storeで勤務していることをご存知だろうか?

 ジョブズといえば、その「ビジョン」が天才的なのだという人も多い。『スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション』(カーマイン・ガロ/著、井口耕二/訳、日経BP社刊)の著者も、「大切なのは情熱とビジョンだ」と述べている。だが、これは、コンピュータ業界に「ビジョンを持ち続けることができない会社」が多いだけではないかと思う。

 いま、アップルが成功しているような世界が来ることは、1990年代の終わりから2000年代の始めにかけて、多くの企業が言っていたことである。メディアがネットワーク化して、新しい体験が得られるようになることは、ビル・ゲイツも、ソニーの安藤国威さんも、CESの基調講演などで言っていたことだ。ビジョンというよりも、歴史的必然として、そのような流れになることがわかっていたと言ってもよい。

 問題は、誰も考えついていたそのビジョン、あるいはわかっていた歴史的必然を、アップル以外の会社は忘れてしまったということなのだ。10年前に掲げたビジョンについて、アップルはやるべきことをずっと地道にやってきたというのが、正しい見方ではないかと思う。そしてそのことが、アップルがなぜここまでイノベーティブな商品を世に送り出すことができたかという問いの答えでもある。

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