webOSに関する戦略ではブレが目立ったHP
HPのwebOS戦略はこれまでも右往左往しており、いくつか行なった戦略発表らしきものは一貫性に欠けていた。Nokiaなどから開発者を引き抜いていたようだが、リード開発者が抜けるなど、開発チームの入れ替わりもあったようだ。
HPは今年に入り、2012年にwebOSを自社PCラインに搭載する計画を発表、7月にはwebOSグローバル事業ユニットのトップにStephen DeWitt氏を任命した。これにより、Apple出身で買収時にPalmのCEOを務めており、AppleのSteve Jobs氏と比較されることもあったJon Rubinstein氏は製品イノベーション担当として一歩退いた立場でwebOSを支えることになった。
タブレットやスマートフォンで鍵を握るのは、ユーザーインターフェイスやハードウェアだけではなく、エコシステムも重要だ。HPがPCにwebOSを統合すれば、その潜在市場が開発者をひきつけ、エコシステムを構築できたように思える(また、HPにはそれを実行するだけの資金力もブランド力もあるように思える)。
HPはPalm買収で垂直統合型のAppleを目指すと予想されていた。だが、この人事発表の前、2010年秋(つまり、Palm買収後)にCEOに就任したLeo Apotheker氏は、webOSを他社にライセンスすることを匂わせていた。Androidのようにライセンスするというわけだが、垂直統合モデルとライセンス事業モデルは通常相容れないものだ。自社で端末を持つと、ライセンス先と不協和音が生じかねない。おそらく、このころから社内ではwebOSの今後についてさまざまな意見が出ていたのかもしれない。なお、webOSライセンスについて最初に報じたBloombergは、有力候補としてSamsungを挙げていた。
もう1つ、見落とせない要素がコンシューマー向けPC事業で重要な関係にあるMicrosoftだ。タブレット参入にあたって自社OSを選んだわけだが、Microsoftが「Windows 8」でタブレットを狙うのは必至。同社との関係も、webOS端末開発の打ち切りという決断にある程度の影響を与えていてもおかしくない気がする。
HPのwebOS端末開発の打ち切りは、webOSが属するPC事業部の見直しの一部として発表されたもの。HPのFAQによると、webOSの端末側の事業を2011年第4四半期に打ち切り、今後同ソフトウェアの価値を最適化する方法を検討するという。Palmは古参のモバイル企業であり、特許も保有している。そのため特許売却も考えられるし、webOSのライセンスもありえる。DeWitt氏は8月19日付けのBusiness Weekで、「webOSは死んでいない。今後も進化させるし、アップデートとサポートを続ける」と述べている。
HPがApple対抗とコンシューマー事業をあきらめたのに対し、GoogleはMotorola Mobilityを吸収することでAppleに対抗するように見える。
モバイルビジネスの覇権は
エコシステムを握るプラットフォームベンダーに移行
GoogleはAndroidを開発し、これをライセンスすることでAndroidのシェア拡大に成功してきた。そのGoogleが端末ベンダーの1社であるMotorolaを取得するのは、Androidの将来にどのような影響を与えるのか? Googleは事前に、SamsungらトップのAndroidベンダー5社を集めて説明をし、賛同をもらっているという。最大の狙いはMotorolaの特許だったとしても、端末事業を切り捨てない限りは関係は不安定になりかねない。
Googleが今後、Motorolaをどう生かすのか、これは今後を待つことになる。それにしても、Motorolaは歴史ある携帯電話メーカーであり、そのMotorolaがGoogleに買収されるというのは、業界の覇権がOSおよびエコシステムを握る側に移行したことを改めて示すシンボリックな事件に思える。
筆者紹介──末岡洋子
フリーランスライター。アットマーク・アイティの記者を経てフリーに。欧州のICT事情に明るく、モバイルのほかオープンソースやデジタル規制動向などもウォッチしている
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