ここがライブの終わりと始まり
―― とりあえず「ドキ生」が終わって寂しくないですか? ボカロシーンとライブという新しい組み合わせが、どう展開するのかが興味深いですが。
武井 寂しいですね。いま始まったところだという気がするので。DTMという枠から出てライブシーンでがんばっているボカロPがいて、次のフェイズを作っていってくれたらなあと思います。僕は音楽業界の片隅で仕事をしていますけど、こういう関わりにおいては一ファンであり、同人的な気持ちでやっているので。
デP そこでオレが思うのは、やっぱり事務所マネーだったり、要するに資本が必要なんですけど、事務所関係が絡んでくると一気にうさんくさくなっちゃって、周りの目が白くなるという。周りどころか出演者自身もそうなっちゃうところもあるし。仕掛けたものが上手くいくという時代が、そろそろ終わりに向かっているんじゃないかと思うんですよ。
―― それは実感としてありますね。仕掛けられてるなと思った途端に萎えるという。
武井 そこにミクやボカロがあること。誰が好き嫌いというのは別にして、皆がひとつになれるアイコンとしての価値があったのかなと思いますね。
―― その記録としても今回のアルバムはすごく貴重かも知れませんね。録っていてよかったというか。
武井 これから何十年か経って、2007年夏にボカロカルチャーが始まったということを紐解いたとき、ライブアルバムがどこにもないというのは寂しいですよね。そこに生の人間がいて、みんな集まってやっていたんだという、その熱気の記録としてすごいマイルストーンだと思いますね。
デP 実は、こっ恥ずかしいんであんまり言わないんですけど、10年後、20年後とかに「そういえばガキの頃にデPとか聴いてたな」って、聴き直してもらった時に「やっぱデP面白い、こいつ馬鹿だなー」みたいな、そういう方向性を目指しているんですよ。
―― え、それは知らなかった。
デP そこで久し振りに聴くと「こんなにしょぼかったっけ?」ってなるのあるじゃないですか。そうならずにデP面白いな、と思えるようなものを作りたいんです。
―― 未来から振り返ってみても面白い、と。もうひとつ、僕はプレイヤーとして参加している人たちの今後の活動にも期待していますけど。
武井 何年後か分からないけど、未来から振り返った時に、あの人もこの人もデPフェス!に参加していたんだ、これすごいじゃん、っていう立ち位置になる可能性は十分にあると思います。
デP もうちょいみんな練習しないとまずいですけどね。
武井 ははは。でもデPの曲はやっぱり難曲ですね。あれを演るのは大変なことだと思いますよ。
―― そういえば先日のドキ生ファイナルも、実はバラで録ったライブテイクがあるんですよね。
武井 ロックの黎明期にものすごいライブの音源があるわけじゃないですか。ウッドストックもそうだし、フィルモアのいろんな録音もあるし。そういうのをなんで今僕らが聴けるのかと考えたら、どうなるのか分からないけど、録った人たちがいたからですよね。
デP うん、そうですよね。
武井 僕の気持ちとしては、このシーンの、この瞬間は残しておくべきだと思ったので、無理をしつつもドキ生に関しては録りました。それをどう使うかは僕の範疇じゃないし、バンドとアカサコフさんとの関係の中で、もし何かできることがあれば、僕はそこに関わっていきたいという思いはあります。
―― もうひとつライブの展開と言えば、今は「ニコファーレ」がその象徴なのかも知れませんが、あれはライブ空間そのものの拡張なわけですよね。
武井 ニコファーレはライブの終わりなのかなという気がしないでもない。地理的に同じ場所に人が集まるというのが、ライブの必須条件だった。それをストリーミングで見たところで、ライブに参加しているとは言いがたかった。でもあれが機能し、工夫された日には、その場にいなくても、その場にいるようなライブ考えられると思うんです。
デP オレは武井さんと考え方は逆で、今は目新しいからコメントなんかで一体感を感じている段階だと思うんですよ。ネットで一体感を感じるからネット視聴でいいか、という感じになっていると思うけど、そのうちネットじゃダメだろうということに気づいて、ライブ会場に来てくれるといいなー、みたいに思ってます。
―― そのためにもデPバンドは続けるわけですよね?
デP もちろん。でもデPバンドと言いつつ、あれで完成というわけではなくて、メンバーを色々やってみようと。下手だから変えるとか、上手いからこっちにするとかじゃなくて、しっくりくるメンツになるまで試行錯誤を繰り返して。他の楽器、たとえばサックスを入れる事なんかも考えていますし。何をしたら面白いのか、色んなことに囚われず挑戦していきたいですね。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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