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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第68回

ここがライブの終わりと始まり――「デPフェス」渾身のCD2枚組

2011年08月13日 12時00分更新

文● 四本淑三

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ミックス作業は「禅でした」

―― 録りは武井さんが担当されたんですが、レコーディングで苦労されたことはありますか?

武井 今回、小屋の卓からセパレートに録れるのは18チャンネルだけという制約があって、かなり難しかったんです。

―― ステージからのラインは何チャンネルあったんですか?

武井 30数チャンネルくらいだったと思います。ボーカリストが5人いたんですけど、それぞれ5トラック使ってしまうと成り立たない。それで2人同時に歌っている時は、同じトラックに乗らない割り振りを考えなくちゃいけない。

デP パズルみたいでしたよね。

ボーカル以上にライブを盛りあげるデP

―― そのマルチトラックデータがデPに渡ってミックス、ということになったと思うんですが、デPはライブのミックスは経験あります?

デP もちろんないですよ。

―― ミックス作業は楽しかったですか?

デP いや、もう禅でした。修行でした。最後の方は若干うつ病みたいになっていました。

―― どれくらいかかったんですかミックスに。

デP どれくらいって書けばかっこいいかなこれ。

武井 時間をかけてじっくりやったという方向でいいんじゃないですかね。

デP じゃあ毎日2時間くらいやって3週間くらいかけました、ということにしておきましょう。ライブの音のほうがカッコイイのは自然の摂理なんですけど、それでもCDで聴いてもカッコよく聴けるようにがんばりました。

武井 たぶん僕は最初のリスナーの一人だと思うんですけど、ライブの勢いというのを感じるミックスになっています。荒削りな部分もあるけど、その場にあるライブ感というか熱気は、うまくパッケージされている気がしますね。

―― ライブのミックスって、具体的には何をどうするんですか? コンプとかリバーブとか?

デP あとは空間を大きく見せたり、客を多く見せたり。まあ要するに見栄を張るための作業です。楽器も100くらいしかできないけど、実は130なんだぜくらいに聴こえるような。

武井 業界の秘密っていうことで言えば、“客増やし”は割とありがちなテクニックです。優秀なエンジニアは自分のライブラリにいろんな会場の拍手を持っていると思います。ということがないとは言えないと噂に聞いたことがある、ということで。

―― ははは、そういうものなんですか。このアルバムではそういうズルいことはしていませんか?

デP まあデPフェスはお客さんを多く見せるためのライブじゃないのでやっていませんけど。

300人収容の高円寺HIGHは満員の観客で埋まる

―― とはいえボーカルは結構大変そうな感じでしたよね。

デP それは、えー、曲によっては部分的に録り直して差し替えもありますが。えー、音楽的に重要な構成が失われている部分をですね、えー……。

武井 補完です補完。

デP それですそれです! 補完をしました。でも鍵盤とドラムとベース、それからパーカスは差し替えないですね。

武井 でも差し替えはプロの商業ライブCDやDVDでも、ある程度やっていることなんで。

デP ある程度どころじゃなくて全然違ってたり。

Image from Amazon.co.jp
Hard Rain

―― いないはずの人がいたりとか。

武井 そう、一見そんなこととは関係なさそうな、ボブ・ディランの「ハードレイン」という76年の大傑作のライブアルバムがあるんですが、最後の曲で「愚かな風」という名曲があるんですけど、このベースは全編差し替えられています。

デP 何で分かるんですか?

武井 僕、当時中学3年の時に、テレビ東京で観たんですけど、途中でベースの弦が切れているんです。ロブ・ストーナーというベーシストなんですけど、3弦状態で弾いているんです。それであんなフレーズになるわけがないというフレーズがアルバムに入っている。あれは差し替えていますね。

※ 「ハードレイン」の邦題は「激しい雨」。国内では1976年にCBSソニーから発売。収録の1976年公演は「ボブ・ディラン・ライブ・コンサート・スペシャル 激しい雨」として、1977年に東京12チャンネル(当時)でオンエア。

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