私立ルネサンス高校は27日、スマートフォンを使った学習プログラム「スマートフォン×デジタル教科書」プロジェクトを開始した。プロジェクトにはケータイの半導体や通信技術を手がけるクアルコム社が協力し、2200人の生徒全員にKDDIのスマートフォンを配布する。
生徒たちがスマートフォンで使う“教科書”は、高校側で制作した独自のWebサービス。学習できるのは英語や理科系科目などで、択一式のテストも受けられる。タッチ操作で問題に答え、音声を使ったヒアリング学習も可能。
発表会には、慶應義塾大学教授・中村伊知哉氏が登壇。官民連携事業「DiTT」(デジタル教科書教材協議会)事務局長の立場から、電子教育について講演した。「韓国では法律を整備し、2013年を目標に小学生に電子端末を与える予定」「ウルグアイでは現在すべての小学生が100ドルのインターネット端末を使っている」など、電子教育(ICT教育)の導入が世界的にすすんでいる事例を紹介し、日本が出遅れている状況を指摘した。
中村教授は、遅れの理由の1つは日本の戦後教育が「成功してきたから」ではないかと分析する。教育現場にデジタル文化が入ってくることで、これまでの成功事例が変化してしまうことへの漠然とした不安感が最大の壁ではないかと話した(講演詳細は次ページ)。
ルネサンス高校は2006年に茨城で誕生した、いわゆる“株式会社学校”。通信教育と教室教育の2つを兼ねている。小泉内閣時代の構造改革特区(教育特区)による規制緩和で創設され、2007年からパソコンと教科書を併用した学習を取り入れてきた。
「生徒もラク、先生もラク。そういうしくみをつくらないと」
同校を運営するルネサンス・アカデミー代表取締役の桃井隆良氏は、そんな思いのもとデジタル化を推進してきたと話す。教育現場のデジタル化により、教師や職員の煩雑な業務も最適化(効率化)して、新しい教育現場をつくっていきたいと熱意を語った。
また同校には、他の学校で不登校になったり、中退した生徒たちも通っている。場所と時間が限定されていたこれまでの学校とは違う授業形式なら、その生徒たちも学習意欲が増すのではないか。桃井氏はデジタル化にそんな期待もこめている。
「スマートフォンは生徒にとって学習を身近にする効果があり、勉強しやすい。従来の学校教育に適応できなかった子どもでも、きちんとした方法論で勉強できるようにしたら、学校の通常の勉強ならクリアできるはず。実際に600人の生徒たちが試したところ、勉強時間が5倍くらい延びていた」(桃井氏)
おなじ茨城県では昨日、つくば市が電子教科書関連の発表をしたばかり(関連記事)。インテルと協力し、市内すべての小中学校でタブレット端末を使った授業プログラムを提案している。全国的に導入が検討されているデジタルエデュケーションの重要なテストケースとして、“電子教科書の茨城県”が注目を集めることになるだろう。