7月26日、日本ヒューレット・パッカードは、スリーコムとの統合で膨大になったポートフォリオを整理し、ネットワークの変革を実現するための「FlexNetworkアーキテクチャ」を発表した。また、HPネットワーク事業本部の事業本部長となった元シスコの大木聡氏の就任会見ともなった。
FlexNetworkアーキテクチャでネットワークを変革
記者発表会の冒頭、5月にHPネットワーク事業本部の事業本部長に就任した大木聡氏が挨拶を行なった。12年間に渡ってシスコでマーケティングを中心に担当してきた大木氏は、HPに転職した理由を広範な製品ポートフォリオの魅力と説明した。「HPのポートフォリオは、スーパーコンピュータからユーザーエクスペリエンスを向上させるモバイル端末まで広範なもの。これらを1社で抱える会社はHPしかない。ICTの将来を見据え、日本のマーケットを盛り上げていきたい」(大木氏)と本部長としての所信を述べた。
続いて、米HPグローバルマーケティング ネットワーキング担当 バイスプレジデントのマイク・バニック氏は、独自規格や制約が多く、脆弱で柔軟性に欠けたレガシーネットワークの弱点を説明。HPはサーバー、ストレージ、ネットワーク、インフラなどを統合した「HP Converged Infrastructure」をコアに据え、ネットワークの業界も大きく変革していくと説明した。
またバニック氏は、「シングルベンダーの方がコストが安い」という従来の意見を覆し、「2つ目のネットワークベンダーを取り入れることで、長期的にコストを削減することができる」(バニック氏)というガートナーの調査結果を引用した。さらに現在のネットワークはキャンパス、ブランチ、データセンターの分野で統合されておらず、「シングルベンダーといっても(分野によって)、プロトコルも、製品も、管理ツールも違う。結局、異なるベンダーから買っているのと同じようなものだ」と指摘した。
これに対して、新たに発表されたHPの「FlexNetworkアーキテクチャ」は、データセンターネットワークを「FlexFabric」、エンタープライズネットワークを「FlexCampus」、拠点ネットワークを「FlexBranch」に分け、これらを「FlexManagement」で管理を統合するという形となる。FlexNetworkアーキテクチャでは、このマトリクス上にスイッチ、ルーター、ワイヤレス、セキュリティの4つの製品がそれぞれプロットされることになる。
コアスイッチからワイヤレスまで新製品多数
こうしたFlexNetworkアーキテクチャに対応した新製品も数多く投入された。後半の大木氏の補足とともに説明を行なう。
- シャーシ型スイッチ「A10500」
- 2011年後半に投入されるシャーシ型スイッチで、A10504/10508V/A10508の3モデルが投入される。コアとディストリビューションの2階層アーキテクチャにおいて、コアを担当する。スロットあたり160Gbpsの帯域を提供し、最大128ポートの10GbE、384GbEポートをサポート。40/100GbEもレディだという。また、独自のスタック技術IRFにより、複数の対応スイッチを統合し、コア当たり208ポートを実現する。旧スリーコムの技術をベースにしたIRFは、HP Networkingの大きな特徴となっており、「きわめて現実的で、安定したフラットネットワークの選択肢を提供する。しかも発表してから時間が経つ枯れた技術」(大木氏)とアピールした。
- モジュラー型「E5400/E8200 zlスイッチ」
- 高密度なモジュラー型スイッチで、v2 ASICの採用で従来機に比べて高いパフォーマンスを実現。シャーシごとにワイヤスピードの288GbEを搭載できる。また、遅延も3μ秒ときわめて小さく、レイヤ3でのヒットレスフェイルオーバーにより高い可用性を実現する。電力も35%削減されている。
- 無線LAN AP「E-MSM430/466/460」
- ビデオ伝送を前提とした高速な無線LAN AP。デュアルバンドのIEEE802.11n対応APで、430と460がアンテナ内蔵タイプで、MSM466のみ外部アンテナが必須となる。430が300Mbps、460/466は業界最速の450Mbpsを実現する。
- 「HP TippingPoint S6100N」
- ネットワーク型のIPSで、16Gbpsのアプリケーショントラフィックをリアルタイムに処理できる。仮想ネットワークのトラフィックを外部のIPSに流し、精査するというHP Secure Virtualization Frameworkを採用。VMSafe APIを用いてVM間通信をインスペクトし、ゾーン単位でセキュリティポリシーを適用できる。「インターネットからデバイスという縦の通信ではなく、今はVM間という横の通信がどんどん増えている。ラックあたりのトラフィックも要求が上がっている」(大木氏)とのことで、いわゆるイースト-ウェストのトラフィックの精査に対応したとのこと。
- HP Intelligent Management Center 5
- 物理ネットワークだけではなく、仮想化ネットワークも管理するソフトウェアで、有線も無線も1つの画面で一括設定できる。パフォーマンス測定やデバイスの応答時間のモニタリングまで行ない、50種類以上のレポートを作成可能。「もともと複数のベンダーで構成されているのが前提」(大木氏)ということで、HP製品のみならず2600にもおよぶネットワーク機器も管理対象となる。次期版では、ネットワーク設定情報とクラウド環境へのプロビジョニングをワンタッチで行なうサーバープロファイルの自動作成もサポートされる予定。
膨大なポートフォリオを整理して顧客に説明
後半は再度大木氏が登壇し、日本でのネットワークビジネスについて説明した。まず大木氏が強調したのが、今回のFlexNetworkアーキテクチャの意義だ。「スリーコム買収から1年経っているが、われわれも従来型の製品説明しかできなかった。両者の製品統合にも時間がかかり、膨大なポートフォリオがあったため、顧客に混乱を与えたのも事実」という反省があったという。今後は、新規導入を前提とした「Lead」と、既存のネットワークで用いられていた「Alternate」に製品群を分類し、さらにエンタープライズとミッドレンジに分割したポジションで製品を顧客に勧めていくという。
日本市場への施策については、まず「ExpertONE Networking」認定制度を拡充し、シスコの認定からの移行を促進していくという。「サーバー、ストレージの次にネットワークを手掛けていきたいという販売代理店の要望は確実に存在する」というニーズに応える。さらに具体的なネットワーク移行を推進するための支援サービスも拡充。移行のプランニング作成はもちろん、ネットワークやセキュリティのアセスメントに注力していくという。
発表会において大木氏は、「新規参入のHP Networking」という表現を何度か持ち出した。これはProCurveブランドからスタートしたネットワーク事業の歴史やワールドワイドでの高いシェアに甘んずることなく、国内市場に挑戦していく姿勢を明らかにしたものだろう。また、ブリーフィングや質疑応答において、「キャリア市場は必ずしも重視しない」「3階層からフラットな2階層のアーキテクチャへ移行させる」「基本的には業界標準を重視する。ただ、方言の多いTRILLのサポートは、標準が固まってから」「個人的には数年後にはワイヤレスがプライマリ、ワイヤードがセカンダリになると考えている」などのいくつかの方向性を明らかにした。Converged(統合)というコンセプトのみが先行していた感のあるHPのネットワーク戦略だが、いよいよ地に足の付いたものとなりつつある印象を得た。