スマートフォンからタブレット、さらには携帯ゲーム機と、ARMコアのプロセッサーを採用する携帯端末は、次第に高度なグラフィックス性能が求められるようになっている。NVIDIAの「Tegra 2」しかり、クアルコムの「Snapdragon」もしかり。もはや高性能なGPUは、携帯端末にも欠かせない機能の一部となっている。
もちろんARMコアの開発元である英ARM自身も、携帯端末でのGPU性能に対するニーズの高まりを理解している。25日、ARMは記者説明会を開催し、同社メディア・プロセッシング部門上級副社長のランス・ハワース(Lance Howarth)氏により、同社のGPU「Mali」シリーズに関する取り組みと将来像について説明した。
ARMのGPU「Mali-400 MP」は、
6割の力でもTegra 2より速い
ARMが提供しているGPUは「Mali」と呼ばれるシリーズがある。現時点での最新版は「Mali-400 MP」と呼ばれるクアッドコアのGPUで、ハワース氏は同GPUを採用するサムスン「Galaxy S II」を例に挙げて、Androidスマートフォンでは最もグラフィックス性能が高いとした。
特に、グラフィックス性能の高さが売りのTegra 2に対して大きな差を付けたベンチマークテスト結果を引き合いに出しながら、「(Galaxy S IIでも)フルスピードではない。パワーマネージメントのために60%程度で動かしている」と述べるなど、Maliシリーズの性能には相当な自信があるようだ。
携帯端末向けGPUは500倍の性能が!?
次世代ではDirectX 11やOpen CLにも対応
携帯端末向けGPUの今後について、ハワース氏はさらなる性能向上に対する要求とニーズの広がりがあることを説明した。まず性能については、ディスプレーの解像度が向上し続けている点と、コンテンツの複雑化といったトレンドがある。スマートフォンでも、WVGAクラスからWXGAクラスの解像度を備える製品に流れがシフトしつつあり、いわゆる4K2K(4000×2000ドット)クラスになると、画面解像度は20倍にもなる。
また、特にゲーム分野でスマートフォンが広がり続ける現状では、グラフィックスAPI「OpenGL ES 1.1」の時代と比べて、現在ではコンテンツの複雑さは25倍にも達しているという。この両者を合わせると、携帯端末向けGPUに要求されるグラフィックス性能は、500倍にもなるというのだ。
またニーズの面では、GPUコンピューティングの流れの到来を挙げた。画像処理やAR、暗号化や物理エンジン、ゲームAIといった処理を、CPUではなくGPUで処理するというパソコンや据え置き型ゲーム機のトレンドは、携帯端末向けGPUにもやってきつつあるというわけだ。
それを踏まえてARMでも、Maliシリーズのさらなる強化に向けて開発を続けている。現在では「Midgard」アーキテクチャーと称する一連のシリーズを開発中で、その第1弾となるのが「Mali-T604」であるという。グラフィックスAPIとしては、現在の業界標準である「OpenGL ES 2.0」に加えて、次世代のOpenGL ES「Halti」、そしてARMコア版が登場する「Windows 8」をターゲットに、DirectX 11にも対応する予定である。
GPUコンピューティング面でも、Mali-T604は初めてそれを念頭に置いて開発されたGPUとなる。「OpenCL 1.1」「Android Renderscript compute」「DirectCompute」といったAPIにも対応の予定とのことで、GPU演算能力は68GFLOPSをターゲットにしているという。
Mali-T604シリーズは、年内に最初のエンジニアリングサンプルを出荷するとのことで、実際に採用した製品が市場に登場するのは2012年後半になると、ハワース氏は予測を示した。2012年の年末商戦では、今よりもリッチなグラフィックを軽快に楽しめるスマートフォンが登場しそうで楽しみだ。