まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第28回
ネット配信と著作権を巡る、慶應大・田中辰雄准教授の「白熱講義」
テレビアニメの無許諾配信はDVDの売上に貢献する!?
2015年12月31日 17時16分更新
P2Pによる違法ダウンロードはどうか?
―― 田中先生の今回の論文は、P2Pによる違法ファイル流通も取り上げているのが特徴です。原則として(※)低画質・ストリーミングでの視聴となるYouTubeと、デジタルコピーがそのまま手元にダウンロードされてしまうP2Pでは、当然影響も異なるのではないでしょうか?
※実際はツールを使うことでYouTubeの動画もダウンロードが可能。またパートナー動画など、HD画質での配信も始まっている。
田中 「グッドポイントです。実は今回の推定でも、Winnyでのファイル共有の効果も見ています。その結果、DVD売り上げには影響はないものの、DVDのレンタル回数には負の影響を与えています。つまりP2Pによるファイル共有はレンタル売り上げの減少を通じて、権利者の収益を減らしています。
これはご指摘の通り、P2Pファイル共有では動画の画質が高いためと思われます。YouTubeがDVD売り上げ促進効果を持つのは、YouTube動画の画質があまり良くないため、ユーザーがこの画質の違いを意識しているからでしょう。
ただ、P2Pが常に損害を与えるわけではなく、音楽に関してはP2Pファイル共有は、CD売り上げに影響を与えていませんでした。ここらへんの相違はコンテンツの特性によると思います」
著作権には「最適保護水準」が存在する
田中 「しばしば議論が混乱するのは著作権保護を全か無かで考えるからだと思います。全か無かではなく、著作権保護には最適水準があります。それを図示したのがこちらです。
『縦軸に利益、横軸に著作権保護の強さ』を置いています。権利者の利益は赤の点線で表わされ、著作権の保護を強めれば強めるほど高くなります。弱めると違法コピーが出回り、権利者に利益がもたらされない状態になります。
ところが、強めれば良いというわけではありません。あまりにも著作権保護が強いと、利用者の利便性が下がっていきますので、結果として権利者にもたらされる利益が低くなってしまいます」
―― かつてユーザーの不評を買ったCCCD(コピーコントロールCD。2002年に一部音楽レーベルが採用した。iPodなどのプレーヤーにも音楽をコピーできない仕様だった)がその一例ですね。
田中 「そうです。今回の論文を適用すると、『YouTubeでの無許諾配信を放って置いても、売上が伸びる傾向』がみられた。ユーザーがその映像にアクセスできる機会が高まり、DVDの売上が伸びていく……この場合、映像の効果は『宣伝』ということになります」
著作権保護は強すぎても弱すぎてもダメ
―― 角川グループが、YouTubeに公式チャンネルを作り、YouTube上の無許諾配信動画にも『お墨付き』を与えることで、広告収益を上げた事例も思い起こされます(関連記事)。
田中 この図でいうと、創作者の利益の頂点部分、ここを拡大して平らな部分があれば、その地点では無許諾配信を放って置いても、または削除しても売上に影響がないと考えられます。そこで無許諾配信を認めると、ユーザーには映像を見るという便益が与えられることになる。
その便益に対して、わずかばかりかもしれませんがおカネをいただく、つまりYouTubeの該当動画ページに広告を表示することでマネタイズし、収益を上げる。広告という形で間接的に数円が支払われるということであればユーザーの違和感も少ないでしょう。
宣伝効果があるならば、まずプラスですし、仮に宣伝効果、つまり今回の論文でいうところの『正の相関』が認められなくても、もしくは『負の相関』が認められない限り、均衡点付近で少額であってもマネタイズができるのであれば、やはりプラスではある、ということになりますね」
―― この図は経済学で言うところの貨幣価値をベースに置いていると思いますが、ユーザーの共感といったものも価値に含めて考えるべきかもしれませんね。
田中 「良い指摘だと思います。経済学では『レピュテーション(reputation=評価)』と呼んでいるのがそれです。何らかの名声・高い評価が得られると結果的にはマネタイズできて、貨幣的価値がもたらされるという考え方です」
―― 企業のブランド価値に通じる話でもあります。
田中 「まさにそうです。集客力があり、商品により高い対価を支払ってもよいと感じさせる。広い意味での資産価値(Wealth)になっていく。
著作権の最適保護水準の図はあくまで貨幣的価値をベースに置いたものですが、仮にそういったレピュテーションからもたらされる価値も含めるとしたら……均衡点がより左側に移動するかもしれませんね」
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