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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第66回

伝説のボカロ系ライブ「ドキ生」グランドフィナーレ

ニコ動生まれのライブは決して“プロの二軍”じゃない!

2011年07月23日 12時00分更新

文● 四本淑三

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武井一雄さん(PAエンジニア)

※ 武井さんはデP好きが高じて、デPフェスのPAを担当されたプロのPAエンジニア(詳しくはこちらの記事をどうぞ)。1日目のPAセッティング・オペレーションを担当している。2日目はミッシェルガンエレファント、エルレガーデンを解散まで担当された佐々木直さんが担当。

―― 新しいハコですが、どうでした?

武井 すごく良い箱だと思いました。ここはヤマハの機材が多いので、そういう意味ではボカロにぴったり。

※「VOCALOID」はヤマハ開発の技術。

とくP (from: ガルニデ+) 撮影:櫻井貴流

―― なるほど。今日初めてのバンドが多かったんじゃないですか?

武井 デPバンド(アトランタ☆デッドボールズ)以外は今日初めて見た、初めてやったというバンドでしたね。

―― どのバンドが印象に残ってますか?

武井 どのバンドもすごかったんだけど、1mm♪の「トエト」には震えましたね。やって楽しかったです。

―― 1mm♪は唯一アコーステックのグループだし、拾うの大変だったんじゃないですか?

武井 チェロには日本ではそんなに数の出ていない、スイス製の特殊なピックアップを大人げなく用意しました。バイオリンもコンタクトマイクを付けてしっかり拾って。1mm♪はこういう環境でしっかり音を出すのはチャレンジングかなと思ったんですが、どうでした?

ichiP (from: 1mm♪) 撮影:櫻井貴流

―― 前回のドキ生で見たときよりはるかに良かったですね。

武井 あとはティッシュ姫が予想以上にイケメンというか、美形だったのでびっくりしましたね。

―― デPバンド、今日はどうでした?

武井 デPフェスの時はパーカッションが入っていたので、音の厚みがあったなと思うんですが、今回はバンドの音がよく出ていましたね。ギターの音もそうだし、リズム隊の安定感も増していたと思います、前回より。あと、et nu。何なんですかあの人達は?

―― やばい演奏でしたよね。ところで武井さんはロスのミクノポリスにも行かれてますけど、比べてみてどうですか?

武井 どっちもすごいですよ。ミクノポリスとドキ生は対照的なイベントですけど、どちらも車輪の両輪のようなもので。海外のボカロファンにも、Pたちのバンドの音が届く日を夢見ずにはいられませんね。

いぶし銀次さん(ドキ生副主催)

―― 今日のライブはいかがでした?

銀次 みんな最高だったと思います。どのバンドも今までで本当に一番良かった!

―― ところで副主催ってなにをやるんですか?

銀次 サポートです。にいとPがやりたいって言ったことを、こういう風にすればできるんじゃないかって意見を自分の経験を基に提案したり、にいとPが居ないときの当日のスタッフの取り纏めを行います。あとは副主催として前説を。

―― それ重要です。超上手いですよね。

銀次 トーク技術だけしかない人ですので。うはははは。

―― うはははは。それはともかく、運営もスムースですよ。

銀次 元々「ニコサマ」のコアスタッフだったんです。それでドキ生を始めるとき、にいとPが俺を誘ってくれたんですね。単発のイベントとして、ニコサマには満足していて思い入れも深いんですが、お客さんと一緒に育っていけるイベントを、シリーズ物でやりたいと思っていたんです。

いぶし銀次さん 撮影:黒狐

今回会場となった新宿Blazeは約800人収容 撮影:黒狐

※ 「nicoNico Summer Live(笑)2008」のこと。最初期に開催されたユーザー発のライブイベントだった。

―― それまでにイベンターとして仕事されていたとか?

銀次 全然経験はないです。普通の社会人として生きてきました。音楽業界の当たり前を知らなかったから、こういうライブを作れたのかなとも思います。

―― トーク技術から言って、もともとイベントの仕事をされている方だと思っていましたが。

銀次 喋りは……そうっすね、もともと上手いですね。わはははは。

―― うはははは。でもこれで終わりって寂しくないですか?

銀次 これが良い散り際だと思います。これ以上のホールでやるとしたら素人の立場ではできないですし。法人でやるしかないですよね。これは前説でも言ったんですが、アーティストのみんながもっと大きなステージに立ってもらうには、ここがあることが甘えになっちゃいけない。自分でイベントを立ち上げて、自分たちで外の世界に進んでいってほしいと思います。

―― 法人にしてこれを仕事にしようとは思わなかったんですか?

銀次 全然思わなかったですね。まず食えないですから。30歳前後のおっさんが10人くらい関わってですね、1公演で半年くらい準備して。スタッフに返ってくるものって、たまーに主催から「お疲れ~」って交通費と弁当代が出るくらい。それって事業としては完全に「失敗」だと思うんです。それに、僕らはユーザーという立場で始めたから最後までその立場で終わりたかった。

会場には関係各社からの花も 撮影:黒狐

―― これだけ観客に愛されている“運営”も珍しいですよ。

銀次 ぼくはしゃべるときにはネットスラングを使わないとか、ニコニコを見ていないと通じない話はしないようにしています。内輪ウケではなくて、一人で来た人、初めて来た人、もっといえばネットに興味がないとか、友達の付き合いで来たとか、そんな人も笑わせることが、俺にとってのライブなので。たとえば普段孤独な人だって、お前生きてていいんだよ、今日があったじゃん、生きていれば楽しいことだってあるんだと。今日が楽しかったら明日も生きていこう、というのがライブだと俺は思ってるんで。“勝ち組のためだけのライブ”にはしたくない。むしろ普段ちょっとどこかで「負けてるなあ」と思ってしまうような人に楽しんでほしいですね。

―― 根底にあるのはアーティストを世に広めたいということではない?

銀次 ではないですね。アマチュアでもここまでできるんだっていうこと。決してそれはプロの二軍ではないんだということを知って欲しいです。ここからメジャーに上がることが目標なのかと言われたら、たぶん趣味だけで一生音楽続けていきたいという人もいるだろうし。もっと音楽に対する関わり方を広くしていきたい。そういうやり方があってもいいんだ、ということをみんなに知って欲しいから、アマチュアとして作ることに意義はあったと思っています。

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