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大震災以降のITの災害対策を考える 第1回

震災で明らかになった大きな課題を知ろう

東日本大震災で見直される災害対策

2011年07月20日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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今回の震災と災害対策

 それでは、2011年3月11日に起こった東日本大震災のインパクトを振り返ってみよう。

 まず、東日本大震災の地震(平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震)は、地震観測史上で世界4番目の激しさであっただけでなく、それに誘発された津波の被害、そして福島第一原発事故に端を発した未曾有の電力危機が特徴である。つまり、BCPが対応すべき有事(ビジネスリスク)として説明した、

  1. 突発的に被害が発生するもの(地震および津波)
  2. 段階的かつ長期間に渡り被害が継続するもの(電力不足)

という「2つの大分類」の両方が生じている。

図2 東日本大震災時の各地の震度(地震調査研究推進本部の資料より)

 これだけの災害を想定して対策を講じていた企業は、東京電力も含めてほとんどなかった、といってよいだろう。つまり、これまでの災害対策において「想定外」だった事象がいくつか生じた。ここでは、情報システムに関して今後の大きな課題となった項目を列挙する。

過酷事故対策の不足

 従来から行なわれてきたリスクマネジメントは、「有事に起こりえる事象(リスク)を想定し、それへの対策を実施すること」に主眼がおかれていた。そこで、

  1. 企業活動への影響が大きく発生頻度が高い事象
  2. 企業活動への影響が大きく発生頻度が低い事象
  3. 企業活動への影響が小さく発生頻度が高い事象

の順で対策を講じてきた。しかし、今回は、福島第一原発の事故という、発生頻度がきわめて低く、かつ一般企業では対策の必要はない、と思われていたリスクが顕在化した。また、津波の被害の大きさが、想定をはるかに超えてしまった。

 こうした「想定外」の状況に対処するのは、危機管理(クライシスマネジメント)や過酷事故(シビアアクシデント)対策と呼ばれる経営管理手法である。深刻な危機に遭遇した企業が、事業活動を断念するのか、縮退してでも継続するのか、その手段はどうするのか、等々の決断を経営者がどのようにして下し、従業員・取引先・株おもなどの利害関係者(ステークホルダー)の理解を得ていくのかといった道筋を立てていく戦略手法である。

 従来の災害対策では、この危機管理や過酷事故対策にまで踏み込んで検討されることは、企業レベルではきわめて少なかった。

バックアップデータの喪失

 津波の被害地域では、ほとんどの建物が流され、かろうじて残った建物も使用不能となった。これに伴い、コンピューターシステム・データ・重要書類などが失われる事態が多発した。町役場が壊滅状態になった南三陸町では町が保管していた戸籍データがすべて消失している。

 別の拠点に保管するバックアップデータを喪失するという事態は、従来の災害対策ではほとんど考慮されていなかった。

物流の停滞

 緊急車両を除いて高速道路の走行規制がかかったことと、自動車の燃料(ガソリン・軽油)の供給が一時的にストップしたこと、津波で港湾や空港が壊滅的な被害を受けたこと、などがあいまって被災地の物流が一週間程度、マヒした。そのため、地震で損傷したコンピューターやネットワーク機器などの代替品を、タイムリーに搬送することができず、復旧が遅れるケースがあった。

 このような物流の長期停滞も、従来の災害対策ではほとんど考慮されていなかった。

電力の不足

 津波が原子力発電所を停止させ、沿岸部の多くの火力発電所も被災したため、被災地だけでなく首都圏でも計画停電が実施された。物流の停滞や製油所の被災により、燃料の供給が滞ったため、各企業が保有する非常用発電設備を有効に活用できないケースもあった。非常用発電設備が機能しないといった事態は、従来の災害対策ではあまり考慮されていなかった。

通信ネットワークの途絶

 沿岸部では、津波により通信各社の拠点局が建物ごと流された。基地局の復旧がなかなか進まず、移動通信車も不足したため、携帯電話(通話およびメール)が機能せず、家族の安否確認をはじめ、津波の被害地域との通信が困難になった。津波に流されなかった基地局は、バッテリーにより数時間の停電には備えていたが、長時間の停電により機能を喪失した。

 結局、携帯電話の普及により減らされている公衆電話がもっともつながりやすく、「災害に強い」という定評がまたも裏付けられた。また、衛星携帯電話の有用性も確認された。

災害対策で注目の製品やサービス

 上述の通り、今回の東日本大震災によって従来の災害対策に不足していた観点がいくつか明らかになった。事前の準備通りに機能した災害対策も多かったが、今後の課題として取り組まなければならない点も多く見つかった。以下、そういった課題に対応する製品やサービスを列挙してみる。

高機能なバックアップツール
 災害対策に重点を置くと、遠隔地へのデータコピー、高速なバックアップ/リカバリー、異機種間でのバックアップ/リストアなどが可能なバックアップツールが有用だ。
データ保管サービス
 契約書などの重要書類の電子化と、原本の安全な保管を組み合わせたサービスのニーズが高まっている。この分野では、富士ゼロックスの「バイタル・レコード・マネジメント」が先行しているが、同様なサービスの参入も増えている。
高信頼性データセンター
 免震・耐震構造の建造物と、長時間に渡り発電が可能な非常用発電設備、および緊急時の連絡用に多用な通信設備を備えたデータセンターである。
省電力なコンピューターシステム
 バッテリーによる長時間運転を可能にする、電力不足に伴う節電目標を達成する、という意味では、企業のコンピューターシステムの省電力化が必須である。

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