死刑廃止も存続も“結論”ではない
―― 刑部の目標ですが、より多くの人が冷静に死刑制度について論じあう風潮が生まれることと、死刑廃止になることのどちらになりますか?
笑月 前者を経て後者に至るのが理想ですね。昔に比べてだいぶ良くなったものの、まだメディア社会でも事件を扇情的に報じるところがあると思います。事件に対する好奇心は私にもありますが、それで終わるんじゃなくて、あくまで冷静に、統計や分析データをもとに死刑制度を論じるというステージが形成されれば、もっと建設的な考えが広がると思うんですよね。それで犯罪を減らす社会が作られていって、死刑も廃止にしていいよというふうになっていったら良いですし、論議のうえで「でも現実的に死刑は必要」と落ち着くのも仕方ないですし。
―― では、仮に10年後や20年後、日本で死刑制度が廃止になったら、刑部はどうします?
笑月 そうなったらそうなったで、また新たな問題が出てくると思うんですよ。死刑の代わりに仮釈放のない終身刑が作られたら、収容所や費用の問題が出てきますし。私自身、最終的な答えが出せる問題ではないんじゃないかとちょっと思っていまして。多分、時代に応じて、あくまで冷静に論議されたうえで、死刑が撤廃になったり復活したりというのが望ましいのかなと。
だから、刑部は一生かけて続けていくと思います。もしかしたら、信頼できる誰かに管理人を委ねるかもしれませんが、こういう場は残しておいたほうがいいでしょうから。まあ、まだ私自身意欲的に追っている事件はありますから、当面は今のまま続けていると思いますけどね。
―― どんな事件ですか?
笑月 1992年の飯塚事件ですね。導入されたばかりのDNA鑑定で有罪になった事件なんですが、当時のDNA鑑定は不備が多かったんですよ。現在のDNA鑑定を再度行なったら、どんな結果が出るのか。現在、再審請求している側から申し立てられているので、注意深く追っています。もし、DNAが現在の死刑囚と別人のものという結果が出たら、世の中はどんな反応をするのか。非常に興味深いですね。
―― なるほど、ありがとうございます。……最後に個人的な興味で、もうひとつ。冤罪事件に関する文献には、立場が偏ったものが多くて、客観的に論じている良書に出会うのに苦労します。“ハズレ”を引かないコツがあったら教えてください(笑)
笑月 それは難しいですね(笑)。正直、これは出会いとしかいいようがありません。ただ、昔と比べると冷静な論調の本は増えてきたと思いますよ。“アタリ”は増えていると思いますが、やっぱり片っ端から読んで自分で判断するしかないんですよね。
筆者紹介──古田雄介
元建設現場監督&元葬儀業者&現古銭マニア&毎週仕事で秋葉原と都内量販店に足繁く通う毎日を送る現デジタルライター。ツイッターIDは@yskfuruta。当連載、最終回まであと3回!
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