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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第97回

死刑は必要? 冷静に考えるためのWeb資料室「刑部」

2011年07月20日 12時00分更新

文● 古田雄介(@yskfuruta

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サイト更新は仕事のストレス解消

―― 情報収集法についてお聞きします。刑部には独自調査のデータがたくさんありますが、日々どれくらい時間をかけているんでしょう?

笑月 仕事の状況によって左右するので、平均はちょっと分からないんですよね。連日残業という状況だとまったく手つかずになって、「忙しくて更新できません、すみません」と一言書くのが関の山になりますから。

 ただ、私にとってサイト更新はストレス解消なので、仕事のピークが終わって一休みしたら、また自然と刑部に取り組む感じになっていますね。情報収集の基本は、ネットで三大紙の記事をなるべく毎日追うことなんですけど、時間がとれるときは国会図書館によく行きます。書籍検索端末で「死刑」をキーワードにしたりして、抽出リストから気になった本を片っ端から借りて読むという感じで。


―― 仕事との両立が大変だと思いましたが、ストレス解消なんですね(笑)。では、モチベーションの高低はこれまでとくに気にならなかったわけですか。

笑月 いや、何回も「もうやめちゃおうか」と思ったことがありますよ(笑)。2001年頃にYahoo! Japanのディレクトリ検索に登録してもらって、徐々にアクセス数が増えていったんですが、すると「犯罪者は死刑だ!」みたいに、ちょっと感情的な書き込みを掲示板に残す人が出てきまして。情報交換のために用意した掲示板なのに、仕事が忙しいときにそういうことをされると、やっぱり「もういいや」という気持ちになってしまいました。でも、ちゃんとフォローしてくれる常連さんも多くて、閉鎖してしまうのはそういう人たちに申し訳ないから頑張ろうと。……それで今に至るという感じです。

刑部の掲示板。公判情報と雑談のスレッドに圧倒的に多くの書き込みがある。現在も頻繁に書き込みがあり、笑月氏のレスポンスも多い


―― あー、感情論をごり押しする人は、どっちのスタンスでも邪魔ですからね。そういうやりとりは現在も続いていますか?

笑月 ゼロではないですけど、沈静化しましたね。たまにそういう書き込みがあっても、常連さんも含めて相手にしなくなっています。だから、感情論で荒れる空気ではなくなっていると思われているのかもしれません。おそらく常連さんの中にも死刑廃止の人と死刑支持の人がいると思うんです。でも、掲示板では互いのスタンスを否定しあうのではなく、裁判の傍聴記や公判情報を提供してくれる感じで、最初に求めていた形にはなっていると感じています。


―― 常連さんのレスポンスとは別に、死刑の実際を追うというベースの意欲についても教えてください。調査を始めた頃は新しい事実にたくさん出会えて、調べるほどに知的好奇心が満たされると思うんですよ。でも、続けていくうちに類型や定型みたいなものが頭にインプットされていって、どれだけ調べても初期衝動と同じ興奮を求めるのが難しくなる気がします。そういう感覚はありますか?

笑月 ええ、おっしゃる通りですね。やっぱりそれはあって、昔と同じ面白みは期待しにくいです。ただ、それでも過去の積み重ねで見えてくる部分もあるんですよ。

 たとえば、死刑になるならないのボーダーラインはどこだろうと考えたとき、各ケースの際どい判例を調べることになります。裁判は一審と二審、三審とありますが、判決が決まるのは実質的に二審までです。それで一審で死刑判決が出て二審で減刑されるケースと、逆のケース、一審の判決のまま控訴を棄却されたり取り下げたりしたケースなどが出てくるわけです。そういう判断が分かれる微妙な事例を数多く見ていくと、どういう辺りの事件がひっくり返るのか、ひとつの逆転を追っても分からない実態が、段々見えてくるんですよね。

一審で死刑判決が下されたあとの動向を年別に追った統計データ。「各種統計」コーナーには、そのほかにも「死刑確定理由」や「管区別死刑被執行数」など、笑月氏オリジナルのデータが並んでいる

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