本連載「Apple Geeks」は、Apple製ハードウェア/ソフトウェア、またこれらの中核をなすOS X/iOSに関する解説を、余すことなくお贈りする連載です(連載目次はこちら)。
UNIX使い向けを始め、Apple関連テクノロジー情報を知りつくしたいユーザーに役立つ情報を提供します。
「1国1キャリア」の終焉
アップルはiPhoneを売り出すにあたり、通信キャリアとの良好な関係を築くべく細心の注意を払ったことは想像に難くない。自前の通信回線を持たないアップルは、既存通信キャリアの力を借りない限りiPhoneの販売は難しいため、独占的販売権を認める代わりにパケット定額など諸条件を飲んでもらう、「1国1キャリア」と呼ばれる安定した関係を構築した。その過程では、逆に通信キャリアの意向を優先せざるを得ない場面もあったに違いない。
その意向に含まれていたであろうひとつが「3G回線帯域の温存」だ。iPhoneの発売からほどなくして、「fring: Video Calls + IM」や「Skype」といったIP電話アプリが公開されたが、いずれも最初はWi-Fi経由でなければ通話できなかった。これは、通信キャリアの重要な収益源である音声通話に配慮した結果だろう。
ショートメッセージ(SMS/MMS)も、通信キャリアへの配慮がうかがえる機能のひとつだと考える。日本では従来同一キャリア間での通信手段とされており、ようやく相互接続が開始されること(関連記事)、またiPhoneの場合ソフトバンクモバイルが無償提供していることからピンとこないが、海外の通信キャリアにとっては大切な収益源だからだ。
しかし、その流れは確実に変化している。2010年春あたりから、3G回線でも利用可能なIP電話アプリがApp Storeに公開されるようになった。ショートメッセージ機能についても、今秋リリースのiOS 5で投入される「iMessage」で、アップル自らがアプリを提供する。
ふと見渡せば、2007年の発売以来米国で約4年間にわたりAT&Tが独占販売してきたiPhoneは、今年1月にVerizonからCDMA 2000版が販売されている。EUにおいても、2009年ごろから各国の複数キャリアがiPhoneを扱う方向にあり、すでに「1国1キャリア」制度は役割を終えつつあるのだ。
選択肢ができ、キャリアにさほど遠慮する必要がなくなったアップルが、IP電話やショートメッセージを事実上“自由化”したことも、それと無関係ではないはず。日本の場合、キャリアメール全盛の一方でショートメッセージが普及しておらず、まずIP電話から競争が始まるのではと見ているが……。
(次ページに続く)
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