安定度に磨きをかける「OS X Lion」
さて、OS X Lionのアップデートを見てみたい。250以上の新機能が搭載していることが発表され、会場では代表的な10の機能が紹介された。Lionの情報については、PantherやTiger時代に近い、いつも通りのWWDCの基調講演に近い雰囲気で発表が進められた。
Multi-Touch Gestures(マルチタッチジェスチャー)
Lionでは、マルチタッチジェスチャーが強化され、スワイプやピンチがより多くの場面で利用可能になる。
フルスクリーンアプリケーション(Full Screen Apps)
アプリケーションが画面いっぱいに広がり、全画面モードで動作するようになる。また、全画面アプリケーションは、左右にスワイプすることで別のアプリケーションへの切り替えが可能となる。
Mission Control
Dashboard、Expose、Spacesが統合され、複数画面を一目で確認できるようになった。3本指で縦にスワイプすることで動作する。
Mac App Store
「Mac App Store」は、OS X用ソフトのオンラインストアだ。著名な販売店チェーンのBestBuyやWalMartよりも高い売上をすでに叩き出しており、OS X用ソフトをもっとも販売している「ストア」となっている。新たな利点は、iOSアプリと同じくアプリ内課金(in App purchase)をサポートし、差分によるアップデートも可能となる。またプッシュ通知機能「Push Notification」をサポートすること、すべてのソフトがSandboxという制限下で動作させることが必須となる。
Launchpad
「Launchpad」は、いわばアプリケーションランチャーの一種だ。ホーム画面など、アプリ管理をになうiOSのスプリングボード(SpringBoard)のように、ソフトのアイコンを画面いっぱいに羅列し、選択しやすくする。
Resume(再開)
ログアウトや再起動時に各ソフトの現在の状態を記録させて、再ログイン時にその状態に戻す機能。例えばソフトウェアアップデートのため再起動を余儀なくされても、ログインし直すと直前の状態が再現されて、すぐに作業を再開できる。
Auto Save(オートセーブ)
「Auto Save」(オートセーブ)は、ユーザーが「Command」+「S」キーを押さなくても、一定時間の間隔(5分ごと)でデータの保存が実行される仕組み。これは、OSのフレームワークが一定時間おきに保存の指示を各ソフトに対して励起するので、それを受け入れてアプリケーションが保存を行なうことを意味する。
また詳しく説明されなかったが、「ロック」という機能が追加されている。以前にもあった機能で、完成させたデータを不用意に変更してしまうことを防ぐためのものだ。Auto Saveとの組み合わせで最適な動作になるのではないかと思われる。
Versions(バージョン)
OS X Lionでは、Auto Saveによる保存が行なわれる一方、さらに一定時間間隔(1時間ごと)でデータの変更履歴が別途保存され、任意の時点の状態に戻すことが可能となる。「Versions」(バージョン)で過去の状態に戻すときのユーザーインターフェースは、OS標準のバックアップシステム「Time Machine」とまったく同じで、OS Xユーザーにとって親しみやすいものとなっている。
AirDrop
「AirDrop」は、Wi-Fiを使った非常にシンプルなファイル共有機能だ。FinderのサイドバーにAirDropという項目が表示され、ここにAirDropを有効にしている近傍のOS Xがアイコン一覧で表示される。そのアイコンにファイルをドロップすると、相手方に送られる。また送られた先では、ファイルがドロップされたことが通知され、受け入れるかどうかが尋ねられる。受け入れを許可してはじめてファイルが転送される。
OS X Lion標準のメールクライアント「Mail」は、iOS、特にiPadのMailに近い外見と操作性になった。フルスクリーンでの操作が想定されたのか、左ペインにメール一覧があり、右ペイン全体を使ってメール本文が表示されるようになった。デザインとしてはOutlookを彷彿とさせる。メールの検索機能が強化されたほか、スレッド表示がさらに見やすくなり、把握しやすくなった。
開発者に示された“合格ライン”
前述の10の新機能は、事前にウェブ上で発表されていたものが多く、パッと見には目新しい情報は見当たらない。しかしよくよく見ると、Lionをターゲットにしたソフトウェア開発で必要な要素を取り揃えていることが分かる。
Lionのユーザーインターフェースは、マルチタッチジェスチャーによる操作が前提であり、開発者は、必要に応じてフルスクリーンアプリケーションを作成することが求められている。LaunchPadで一覧表示させることが明言されており、これは「再開」(Resume)、「バージョン」(Versions)についても同様だ。また、Mac App Storeでの販売が推奨されている。
Mission ControlとAirDropは、開発者向けという視点からは若干外れた機能で、LionというOSそのものの新機能を純粋に紹介したものと見受けられる。ただし、これら機能が標準で存在するという、アップルからのメッセージに変わりはない。
最後のMailだが、これは、iPhoneの標準アプリと同じく「基準」となるソフトを示したものだ。この程度のことができないと、Lion時代のソフトとして販売には値しないことが要求されたとみるべきだろう。
低価格化により、旧OSからの大移動を推進
Lionの発売は7月発売予定で、価格は29ドル(日本では2600円)と発表された。前回のSnow Leopard(日本では3300円)に続き、きわめて低価格で販売される。
価格の安さは、購入しやすいというユーザー視点の評価もあるが、開発者からみれば、「プラットホームとして前提としやすい」ことを意味する。
もしLionが1万数千円、あるいはそれ以上に高価であったら、値段が高くなるにつれてアップグレードするユーザーは減っていくだろう。すると、サードパーティー側に対しても古いバージョンのOSでの動作を要求されることが多くなり、サポートを続けざるを得なくなる。古いOS(Windows XP)が残留し続けているために、マイクロソフトですら苦労している状況を考えれば歓迎したい判断だ。
またLionは、Mac App Storeで提供されるダウンロード販売のみとなり、パッケージでの販売もなければメディアも提供されない。
量販店などの店頭で買えないことは一見不親切に思える。しかし、「ソフトウェアのパッケージを買ってきて、光学ドライブにメディアを挿入して、それからインストーラーを立ち上げる」という過程は、今や“普通の人”には複雑すぎるのだ。
新しいOSを「“アプリを買う”ように導入できる」という仕組みは、アップデートへの障壁を下げるには非常に有益なのだ。
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