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「今のインフラではまずいとみんな感じている」

ジュニパーが見通す10年後のキャリアインフラ

2011年06月24日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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現在のトラフィック増大はビジネスの根幹を揺るがす大きな問題と警鐘を鳴らすのが、ジュニパーネットワークスである。コアビジネスユニット シニアバイスプレジデントであるダニエル・ホア氏に、次の10年を見据えた通信事業者のインフラについて聞いてみた。

コストセンターになるキャリアのインフラ

 今となっては幅広い種類のネットワークやセキュリティ機器を手掛けるジュニパーネットワークスだが、もともとはキャリア向けのルーター専門のベンダーである。20年以上に渡り、キャリア向けのビジネスに関わるホア氏は、Tシリーズをはじめとするコアルーターのビジネスを統括している。ちなみに同氏は日本の大学で博士号と修士号を取得しており、流ちょうな日本語を話す。

米ジュニパーネットワークス コアビジネスユニット プラットフォームシステムグループ シニアバイスプレジデント&ジェネラルマネージャー ダニエル・ホア氏

 まずホア氏はトラフィック増加とこれをさばくためのインフラ投資の限界というキャリアの問題を改めて提示した。スマートフォンと動画の増加、そしてクラウドの台頭により、指数的にトラフィックが増えているという状況は、先日掲出したジュニパーのR.K アナンド氏のインタビューでも明らかだ。ホア氏は、回線交換とパケット網という観点でインフラとビジネスを捉える。「今までのインフラは半分が回線交換のTDM、半分がパケット網だが、実際に流れているのはパケットがほとんど。5年後には7割が純粋なパケット網になるが、TDMの収益は根強く残る。サービスを捨て去る訳にはいかない」と述べる。こうなると、インフラが収益を生みだす打ち出の小槌ではなく、コストセンターになってくるのは明らかだ。

8スロット型スーパーコア・システム「PTX5000」

 こうした動向があるため、キャリアがパケット系とOTNのような伝送系、そしてMPLSという異なるレイヤに投資しているのも問題だ。ホア氏は「パケット系と伝送系はチームも異なる。レイヤごとに冗長化メカニズムがあるのも複雑だし、トラブルシューティングも困難だ」と語る。

 これに対してジュニパーが提供するのが、PTXというOTNを統合したMPLSスイッチで超高速の伝送ネットワークを構築する「スーパーコアアーキテクチャ」だ。「結局、IP屋はパケットベースのネットワークにOTNを追加するし、OTN屋はOTNをコアに据える。われわれはパケット伝送やOTNをラインカードとして提供し、両者のサービスを共存させるアプローチをとる」(ホア氏)というわけだ。

 PTXでは、管理やトラブルシューティングはマルチレイヤで統合するほか、パフォーマンスも高速化できる。この背景は、「今までわれわれはサービスと伝送を1つのチップに統合していたが、コアにはレイヤ3やリッチなサービスは不要だ。そのため、サービスを重視したエッジ向けのチップと、伝送能力や電力消費、ポート密度に注力したコア向けのチップのように、目的ごと異なるチップを開発することにした」(ホア氏)という方針があったからだという。

各国で意外と異なるインフラ刷新の考え方

 キャリアはインフラの刷新についてどう考えているのだろうか? 世界各国の通信事業に明るいホア氏は、「米国ではコンテンツプロバイダやMSOなどがドラスティックな刷新を行なっている。また、キャリアはメトロから変えたいという事業者と、ロングホール(長距離通信)から始めたいという事業者に分かれる。一方で、中国はMPLSがほとんど入っていないため、もとよりルーターベースのパケット網。ローカルベンダーがMPLSを得意としていないからだ。日本は、コンテンツプロバイダやMSOが少ないという特徴があるので、インフラはローカルキャリアに依存している」と分析している。ただ、パケット網への移行やレイヤの統合化、そしてこれにともなうキャリアの組織再編やビジネスのシフトという大きな動向は変わらない。そして「どの事業者でも、今のインフラではまずいという認識は持っている」(ホア氏)という。

 PTXをコアとする同社のスーパーコアアーキテクチャへの投資は今後も続き、ロングディスタンスやOTNスイッチングなどのフイーチャーが追加されていくことになる。

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